第1329話 ライムント地方で起きていること
統一歴九十九年五月十二日・朝 ‐
気まずそうなアルトリウスに助け船を出したのはリュウイチだった。
『カール君、アロイスさんは頑張ってるんだし、時に物事は思わずうまく進むことだってあるよ。
遠く離れたところにいる私たちはアロイスさんの努力を信じてあげたほうがいいんじゃないかな?』
リュウイチは笑っているわけではないが特に心配しているわけでもないというよう数でカールに語り掛ける。カールは
「そうかもしれませんが、アルトリウス閣下が言われた様に簡単ではありません。
シュバルツゼーブルグは広いと聞いてます。
アルトリウス閣下が言われた様に、山の中で軍隊が思うように動けないなら、きっと五百人じゃ足らないです」
『応援のために連れて行ったのは五百人だけど、現地では別の兵隊がいるからもっと多いんじゃないかな?』
リュウイチがそう言ってアルトリウスに視線を送ると、アルトリウスはカールを元気づける好材料を思い出し、表情を明るくした。
「リュウイチ様のおっしゃる通りです
現地で他の部隊と合流しますから、人数に不足はありませんよ」
努めて明るく言ったアルトリウスだったがカールは敏感に“誤魔化し”の臭いを嗅ぎ取った。機嫌の悪い子供をあやすような上辺だけの上機嫌、
カールは俯いたままプイッとそっぽを向く。
「シュバルツゼーブルグに動かせる兵なんてありません。
シュバルツゼーブルグには難民がいっぱいいて、シュバルツゼーブルグ卿の兵は日ごろの治安維持だけで精一杯だって聞いてます。
法律が許す上限の、五百人の兵を全部使ってるのに、それでも足らない……それでもシュバルツゼーブルグ卿は一生懸命頑張ってるって……去年から聞かされてます」
口を尖らせて
「そうではありませんよ」
アルトリウスは拗ねたカールの見せる拒絶を前にしても諦めなかった。
「
「……サウマンディア?」
カールが顔を上げ、アルトリウスを見る。そのキョトンとした顔にアルトリウスは手ごたえを感じた
「そうです。
「それは
アルトリウスは微笑んだまま首を振る。
「いいえ、違います……あー、そっちも
援軍は
盗賊どもはブルグトアドルフ周辺に潜んでいるらしいので、
カールの顔に再び赤みを取り戻した。だが、不安が取り除けたかと言うとそうでもないらしい。一瞬、浮かびかけていた微笑みをカールはすぐに消し、慎重に考えこむような様子を見せる。
「まだ、不安ですか?」
アルトリウスが尋ねるとカールは怪訝そうに首を傾げた。
「分からないことがあります」
「何でしょう?」
「サウマンディアは何でそこまで助けてくれるのですか?
わざわざ
あー……アルトリウスの表情から笑みが消え、ルキウスと視線を交わす。どこまで話していいのか迷っているのだ。少なくとも
だがそれを次期
逡巡の末、今度はルキウスが答えた。
「あー、実は今度の盗賊団にメルクリウス団が関わっているという情報がありましてね」
「メルクリウス団!?」
カールは驚き、跳ねるように身体を伸びあがらせる。
「新たに降臨を起こすために盗賊団を利用したと……そういう噂があるようなのです」
驚愕の表情でルキウスを凝視していたカールは見開いた赤い瞳をリュウイチに向ける。
「まさか、リュウイチ様に関係が?」
これにはリュウイチが逆に驚き、慌てて首を振る。
『いや、私は関係ないよ』
「リュウイチ様の降臨とは別に、降臨を引き起こそうとしていたようなのです」
リュウイチの弁明を引き継ぐ形でルキウスが言い添えた。今度はそれを打ち消すようにアルトリウスが「ああっ!」と声を上げ、割り込んだ。
「まだそれも確認されたわけではありません。
まだ噂程度の話でしてね」
三人の大人たちが、というよりルキウスとアルトリウスが食い違う話をしそうになっていることに気づいたカールは眉を寄せる。ルキウスは自分が失言したことに気づき、
盗賊団の背後に『勇者団』が居ることは事実だし、『勇者団』にメルクリウス団の疑いがかけられているのも事実だ。だが『勇者団』の存在は秘されねばならなかったし、メルクリウス団が暗躍していたという話も否定されねばならない。何故ならエッケ島に逃げ込み立てこもっている
アルトリウスはルキウスの目配せで話を任されたことを理解すると、説明を続ける。
「盗賊団を率いていた首領がどうも不思議な力を使っていたと捕虜たちの証言があったのです」
「不思議な力……」
「ええ、常人では考えられない戦闘力で盗賊たちを圧倒し、盗賊たちはその首領に従わざるを得なかったと……で、そこからメルクリウスか、メルクリウス団が関わっているのではないかと邪推する者が出ましてね。
仮にメルクリウスと関りがあるとすれば伯爵家が捕えねばなりませんから、サウマンディアから捜査のために
「それは、メルクリウス団じゃないのですか?」
アルトリウスは自分の茶碗を手に取り、首を振った。
「それを確認するためにアッピウス閣下が来られたのです。
おそらく、南蛮あたりから流れて来た
そう言うとアルトリウスは手にした茶碗を口元へ運び、香茶を飲んだ。
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