第1005話 対処方法
統一歴九十九年五月十日、朝 ‐
リュウイチは腕を組むとオトの顔を見詰めたまま上体を背もたれに預けた。
「
『あ?ああっ!大丈夫、疑ってるわけじゃないよ。』
やっぱり信じてもらえないんじゃないか、大袈裟だと否定され、臆病者と罵られるのではないかと心配になったオトにリュウイチは軽く手を
『火が急に強くなるとか、いきなり風が吹くとか、確かに火事とか大事故に繋がりかねないからね。』
そう言いながらリュウイチは翳した手をそのままおろし、卓上の
試しに一口すすり、それからグイッと茶碗の三分の一ほどを一息に飲むと、そのまま卓上へ茶碗を戻す。
『それで、その危険を回避するためにはどうすればいいのかな?』
ではゲームではない現実でそういう問題が起きたらどうすればよいのだろうか?
リュウイチはその答を持っていなかった。魔力というものがどういうものなのかすら、リュウイチはゲームやアニメや漫画で得たような漠然としたイメージしか持っていなかったのだから仕方がない。魔力暴走による事故なんて、そのメカニズムがどうなっているかわからないのだから、対処のし様も分かるわけがないのである。
「えっ!?」
だがそんなリュウイチの反応はオトにとってあまりにも意外なものだった。
「いや、私にそんなこと訊かれましても……」
オトにとって、いや他のヴァーチャリアの人間すべてにとって、リュウイチは史上最強の降臨者 《
「
『俺が!?』
リュウイチは思わず素で叫んでしまった。その声が裏返っていたことで、オトはどうやらリュウイチが悪戯や芝居で分からないフリをしているわけではなく、本当に分からないのだと気が付いた。思わずゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込む。
まいった……どうしたらいいんだろ?
信じられないという表情のオトの顔を見詰めたまま、リュウイチは再び茶碗に手を伸ばした。
『えっと、こういうことって前例はあったりするのかな?
その時はこうやって解決したとか?』
グビリと香茶を喉に押し込んだリュウイチが改めて尋ねると、オトはハッと我に返る。
「えっ!?あ、ああ、ハイっ……前例……前例……」
ええ、嘘だろ?
一番の専門家が身近にいるんだからと頼った先が全くアテにならなかった。そんな状況で混乱を覚えずにいられる者は少ないだろう。
オトは無意識のうちに前のめりになっていた上体を引き、頭をボリボリ掻きながらあても無く床に視線を這わせる。
「その、他の
中には、それで火事や爆発事故が起きて、そのまま命を落とされてしまわれた方もいらっしゃったとか……」
『おお……それで?』
「それで……」
興味深げに話の続きを
「魔力に優れた聖貴族様や神官様たちが、魔力の暴走を抑え込んでいたのだそうです。」
『具体的には?』
「具体的には……」
オトは改めてリュウイチの顔を遠慮がちに見、そのまま言葉に詰まってしまった。そして頭を掻いた時のまま頭に添えていた手を膝の上に降ろし、諦めたようにションボリと
「すみません……具体的なことは私も……」
ンンーーーーーッ……声にならない声を噛み殺しながら、リュウイチは上体を起こした。
「ただ昔読んだ本によると、赤さんが泣くたびに放出する魔力に周囲の
その具体的なやり方はというとさすがに私が読んだ本には書いてなくて、ちょっと……すみません、存じません。」
リュウイチをガッカリさせてしまった……リュウイチの奴隷という自分の立場を
『オトさんは、本とかよく読んでるの?』
「えっ!?」
唐突に変わった話題に驚き、オトはパッと顔をあげた。
「あ、ああ~ハイ……昔、
戸惑いながら答えると、リュウイチは片手で顎を
『
オトがリュウイチの方へ視線を戻すと、リュウイチはそのままの姿勢で天井を見上げていた。
「そ、そりゃあお出来になるんじゃないんですか?」
オトの言葉にリュウイチが視線を戻した時、オトは既に視線を明後日の方へ戻していた。何か頬を引きつらせていて、笑っているようにも見えなくもない。
「
お出来になられないってこたぁ無いと思いますが……」
言い終わったオトは浮かんでいた笑みを消し、気まずそうな様子でチラッチラッと目だけでリュウイチの様子を伺う。まるで内心で
リュウイチはその様子を見ながら数秒の沈黙ののちにフッと笑った。
「?」
『まあ、そう言う風に思えるよね。』
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