第909話 街道上で
統一歴九十九年五月九日、夜 ‐ グナエウス峠/
グナエウス峠の頂上付近、東側の坂道の上から二番目のカーブの岩陰にティフ・ブルーボール二世率いる
「なぁー、不味いよ。
こんなところにまとまってさ……
誰か来たら絶対怪しまれるぞ?」
スワッグ・リーはやたらと甘えてくる馬たちの
まあ、そういう不安に駆られるのも仕方が無いだろう。なにせ彼らは真夜中に何もない街道上で馬を降りて
「大丈夫だろ、この時間なら通る奴はいないさ。」
ソファーキングはそう言って
そんなところに人間四人が馬五頭と共に何をするでもなく突っ立っているなんていくら何でも不自然すぎる。盗賊と間違われて通報されてもおかしくはない。
「そんなこと言って、もし誰かが通りかかったらどうすんだよ!?」
普段の彼らなら通報されるかもしれないという程度ならさほど気にはしなかっただろう。何せ彼らは世界最強の
だが今回はそうも言っていられない。彼らが見張っているグナエウス砦には、もしかしたらあのルクレティア・スパルタカシアが……《
「まあ、そう神経質になるな。
ここら辺に魔力は感じないよ。
少なくとも、敵側の
ソファーキングの言葉にスワッグは口を尖らせ、喉の奥で唸った。言われた様に確かにこの辺りに不自然な魔力の高まりは感じられない。多分、まだ見つかっていないというのは本当だろう。そう思いたい。が、安心はできない。
ブルグトアドルフの夜、スワッグはナイス・ジェークとエイー・ルメオの三人で森に
あんな強力な《
この場所だって、魔力を感じないからって安全だとは限らないじゃないか……
スワッグはあの時、あの森の中で、スモル・ソイボーイの命令に従って《森の精霊》に攻撃を仕掛けたがいとも簡単に捕まってしまった。《
スワッグは感覚の鋭い方だ。魔力強化した肉体で近接格闘戦闘を挑む攻撃職である彼は、あらゆる攻撃を
「それにしてもファドの奴、まだかな?
早く帰って来てくれるといいが……」
あの日以来、スワッグが妙に
ハーフエルフ様でさえ
そんなの気にすることないのに……
魔法職のソファーキングは良くも悪くも負けることに慣れていた。魔法の実力は魔力の差でほぼ決まる。そしてヒトに過ぎないソファーキングはハーフエルフたちにはまず勝てない。自分がどうあがいても勝てない相手と接することに慣れているソファーキングは、勝てない相手に負けることをクヨクヨ気にするのを当の昔にやめていた。
だがスワッグの方はそうでもない。ハーフエルフは魔力では優れているが体力ではヒトに劣るのが普通だ。ハーフエルフが優れた魔力で身体強化したとしても、やはり魔力で身体強化したヒトに対しては体力面でそれほど大きく上回ることはできない。そして体力が互角な者同士の格闘戦ともなるとセンスが大きくモノを言う。つまり、スワッグは格闘戦に限って言えばハーフエルフが相手でも決して負けないのである。魔法や武器を使っての総合力ではさすがに不利だが、状況次第では勝利を勝ち取るだけの技量を持っていた。
スワッグも負けた経験が無いわけではないが、しかしこれだけは負けないと思っている部分で負けたことは無かった。それなのに前回はその負けないと思っていた部分で手痛い失敗を喫してしまった。だからこそ悔しくてたまらなかったのである。
「ああ、そうだな……クソッ!
ファドの奴、いつまで待たせるんだ……」
待っている時間というのは辛い。待っている間というのは、何もできないからだ。待つ以外何もできない自分と向き合わねばならないからだ。自然と嫌なことが次々と思い出されて苛立ち、気が滅入ってしまう。
「ブルーボール様も、早く諦めてくれるといいが……」
二人は少し離れたところで、岩陰から顔を出して砦の様子を伺うティフと、ペトミー・フーマンの後ろ姿を見た。ファドが帰ってくれば、今度こそティフは諦め、彼らはこの場から帰れるはずだった。
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