動き出したアッピウス
第718話 不審な住民たち
統一歴九十九年五月九日、午後 ‐ ブルグトアドルフ/アルビオンニウム
セプティミウスはルクレティア・スパルタカシア・リュウイチアに同行してアルトリウシアからアルビオンニウムへ来る途中、シュバルツゼーブルグに宿泊して以降、ずっと『勇者団』からの
そして、『勇者団』はおそらくアルビオンニウムで降臨を起こそうと画策しているようだが、アルビオンニウム近郊で発見された彼らのアジトは放棄され空き家になっていた木こり小屋であり、長期の滞在や物資の集積には適していない。『勇者団』が使役している盗賊どもがもともとシュバルツゼーブルグ近郊で活動していた連中であったことだし、おそらく『勇者団』の活動拠点はアルビオンニウムよりも南にあるのではないかとアッピウスは予想したのだった。
途中、放棄された
本当ならブルグトアドルフか、ブルグトアドルフのすぐ南にある
今朝はかなり早い段階でアルビオンニウムを
「ん、なんだあれは!?」
ブルグトアドルフの街を視界に収めたアッピウスは、
アッピウスはかつて幾度かブルグトアドルフの街を訪れたことがある。街に訪れたというか、通過したのだ。過去に幾度か行われた対南蛮戦に加勢するため、アルビオンニアに
ブルグトアドルフは通過したことがあるだけだったので詳しく知っているわけではないが、一応街並みや周辺の景観などは見覚えがある。彼の目に映る街並みはつい最近の盗賊団の襲撃によって荒らされており、いくつかの建物は破壊され黒く焼けてしまっていた。だが、アッピウスが疑問を抱いたのはそこではない。アッピウスは一昨夜に行われたブルグトアドルフでの戦闘については未だ知らなかったが、その前のルクレティアがアルビオンニウムへ向かう際にブルグトアドルフで遭遇した盗賊団による襲撃事件についてはセプティミウス・アヴァロニウス・レピドゥスから話に聞いて知っていたからだ。アッピウスが奇異に感じたのは街並みの荒廃ではなく、そこに住民らしき人影が見えたからである。
「あいつらは何者だ!?
おい!先行してあいつ等を捕まえろ!
盗賊団の一味かもしれん、油断するなよ!?」
「ハッ!」
アッピウスが命じると、すぐ近くにいた
「オイ、ここで停止だ!
周囲の警戒を厳とせよ!」
斥候を放ったアッピウスは座輿を担いでいる軍団兵に命じ、残った部下たちに周囲への警戒態勢を取らせつつ、座輿の上から部下を引き連れて駆けていく百人隊長の後ろ姿と街の様子とを凝視した。
百人隊長はアッピウスが見つけた住民を捕まえ、いくつか言葉を交わしたと思ったらその住民に数人の部下を付け、さらに街の中へ突入して行った。
「どうしたんだ?
何をやっている?」
おそらく何かを見つけたのだろう。だが何を見つけたというのか?
“敵”を見つけたのなら、いきなり自分たちだけで突撃していくとは考えにくい。アッピウスの部下たちは一応“敵”の正体について知らされていた。そして、軽々しく攻撃するなとも命じられていた。
アッピウスの兵士たちは全てを知らされているわけではない。ムセイオンから
ひとまず『勇者団』と盗賊団の関係はあえて伏せておき、アルビオンニウムやブルグトアドルフを中心に起きた一連の事件は盗賊団の仕業とし、『勇者団』は事件とは無関係の存在として処理するつもりでいるのだ。軍団兵の口からうっかり真実が漏れてしまう可能性は回避せねばならない。
できることなら、領主であるエルネスティーネ・フォン・アルビオンニア侯爵夫人にも知られないまま事件を処理してしまいたかったが、アルトリウシアから飛んできた伝書鳩により、どうやらリュウイチがルクレティアに付けた《
だが、エルネスティーネだってアルビオンニアを治める
そのためにサウマンディウムから
とまれ、レーマ軍に歯向かう凶暴な盗賊団が
見つけたのが盗賊団や『勇者団』なら引き返してくるはずだ。
何を見つけたというんだ?
疑問を抱くアッピウスのもとへ、やがて百人隊長は部下とともに複数の住民を引き連れて帰ってきた。八人ほどの住人は不安そうにアッピウスと、アッピウスが率いているサウマンディア軍団の兵士らを見回している。
「
ご命令通り、街にいた住民ども全員を捕まえてまいりました!!」
百人隊長はアッピウスの前で見事なローマ式敬礼をすると元気よく報告する。
「う、うむ‥‥‥」
たしかに『あいつ等を捕まえてこい』とは命じたが、だからといって‥‥‥
アッピウスは事情を知るために、目に留まった連中を連れてくるように命じたつもりだったのだが、百人隊長はアッピウスの言った『あいつ等』を拡大解釈したようだ。
誇らしげな百人隊長に呆れつつ、アッピウスは気を取り直して住民たちへ視線を移す。全員がヒトであり、肌の黒いランツクネヒト族だった。八人のレーマ人に比べて大きな瞳がアッピウスの方へ向けられるが、その眼には不安と怯えが浮かんでいる。
アッピウスはフゥーッと不満そうにため息をつくと、住民たちに問いかけた。
「それで、お前たちは何者だ。
あそこで何をしていた?」
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