ブレーブスの反省会
第695話 シュバルツァー川の朝
統一歴九十九年五月八日、朝 - シュバルツァー川ブルグトアドルフ上流/アルビオンニウム
「ふぅ~~~~っ」
河原で一晩中焚き続けた
ブルグトアドルフの森でティフ・ブルーボールらに付き添わされて《
パチッ、パンッ!
追加の薪として放り込んだ流木が燃え始め、激しく
「ん……あ、あれ……?」
「おう、起きたのか?」
寝ぼけ
「
あれ、ここは!?」
「シュバルツァー川の河原だ。
ブルグトアドルフとは森を挟んで反対側あたりだな。」
「え!?……あれ?俺!…えっ!?」
冷静に、いや無感情に焚火を見つめ続けるクレーエとは対照的に、レルヒェは混乱しているようだった。飛び起き、立ち上がり、自分の身体を
「あれ……俺は確か森の中で……そうだ、何かが近づいてきて……あれ!?
思い出せない‥‥‥記憶が無いぞ!?!?!?」
「お前は寝ちまったんだよ、レルヒェ」
「寝た!?あの状況で!?」
信じられない……まさに「そう顔に書いてある」と言って良い表情だ。
「ああ……ほら、スタミナ・ポーション飲んだろ?」
「あ、ああ……飲んだぜ?」
「ありゃあ、偽物なんだってよ。」
「偽物!?」
「ああ、あれは飲むと疲れを感じなくなるポーションなんだそうだ。
お前、あれ飲んだら無理にでも寝ろって言われたのに、寝ずにバクチやってやがったろ?」
「あ!?……あ、ウッ、ウンッ……ま、まあ、ちょっと……」
「それでお前の身体に疲れが溜まっちまってたのさ。
だけど偽スタミナ・ポーションのせいでお前は疲れを感じなかった。
それで、ポーションの効き目が切れた途端にそれまで溜まってきた疲れが一気に出てきて、そのまま寝ちまったのさ。」
クレーエの説明にレルヒェは唖然とする。
「ルメオの旦那の話じゃあ、下手すりゃ二、三日は寝たまま起きねぇかもってことだったがなぁ、気分はどうだ?」
この時初めてクレーエはレルヒェの顔を見た。レルヒェはクレーエのその、今までと何か違う表情に異質なものを感じてドキリとし、ドギマギしながら答える。
「え、あ、ああ……なんか、すっきりした感じだ。
いや、寒いけど……」
「眠気はもう無いか?」
クレーエの言葉は気遣うようではあったが、表情に優しさは
「え?……ああ、もう大丈夫だ。
いやホント、平気。」
「ホントか?
数日分の疲れだ、下手すりゃ今日の夕方か明日ぐらいまで寝続けるんじゃねえかって話だったんだがな?
眠気がとれてねぇんなら無理に動くな。
中途半端な状態で起きだすと、またいつ突然寝ちまうか分かんねぇそうだからよ。」
クレーエが脅すように言うと、レルヒェは少し目を丸くして
「いや、ホントに大丈夫だ。
眠いっつーか、何か、むしろ寝過ぎた感じ?
ああ、それより腹が減ったよ。」
「‥‥‥ふーん‥‥‥ならいいか、腹が減ったならそこにキツネの肉がある。食っていいぞ。」
「キツネの肉!?
キツネなんか食えんのかい?」
「さあな、先に川で顔を洗ってこい。」
やぶ睨みにレルヒェを観察したクレーエは、どうやら大丈夫そうだと納得すると川を
ふぅ~~~、どうやら大丈夫そうだな。
川の方へ走っていくレルヒェの後ろ姿を見送ったクレーエは再び焚火に視線を戻し、その場に腰かけた。
「うひょぉー--っ冷てぇー-っ!!」
バシャバシャと派手な水音でシュバルツァー川のせせらぎの調べをかき乱すとともに、
「んっ、んん~~~っ……う、寒っ!」
ふぅぅ~~~~っ
もぞもぞとエンテが起き出す気配に、クレーエは溜息を吐く。
ああクソ、この間抜け共を使って盗賊どもをまた集めなきゃいけねぇのか……
「あ、あれ……
あ~~~、いつの間にか寝ちまった‥‥‥あれ、
起き出したエンテはあたりを見回し、自分が昨夜留守番中に寝てしまった事に気付くとバツが悪そうに頭を掻いた。
「あの人たちならもう行っちまったよ。
朝早くにな。」
「おう、エンテ!アンタも起きたのか!?」
クレーエがエンテの質問に答えている間にレルヒェが濡れた顔を
「
「ああ、おかげさんでもうバッチリさ。」
ふぅぅ~~~~っ
能天気な二人の会話を余所に、クレーエが再び溜息をつくと、二人はクレーエの雰囲気に只ならぬものを感じ、思わず口をつぐむ。
「だ、旦那?」
エンテと顔を見合わせてからレルヒェが恐る恐るクレーエに声をかけてきた。
「ん?」
「……どうか、したのかい?」
クレーエのご機嫌を伺うレルヒェに応えず、クレーエは薪を一つ掴んで火に投げ込む。無反応なクレーエにレルヒェとエンテはゴクリと
「いや、夜通し火の番をしてたからな。疲れて眠いんだ。
お前たち、起きたんならちょうどいい。俺ぁこれからひと眠りするから、そっちの二人が起きたら起こしてくれ。」
そう言うとクレーエは何故か腰に剣のように差していた木の枝を抜き、その場でゴロッと横になると、抜き取った木の枝を片手で大事そうに抱え込み、もう片方の腕で腕枕をして目を閉じる。
「二人って?」
レルヒェがそう言って見回すと、エンテが「アイツ等さ」と指を差した。その先には見覚えのある男が二人、並んで寝かされていた。二人とも盗賊団の一員だった。
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