第1092話 それぞれの“特別”
統一歴九十九年五月十一日、午後 ‐
話を付けたのはアルトリウスだった。
リュウイチ様、この度サウマンディアから再びマルクス・ウァレリウス・カトゥス殿が参られます。 ああ、はい、聞いてます、マルクスさんですね。 ええ、前回もそうでしたが彼は一応、サウマンディア属州領主プブリウス・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵の使者として参られます。 はい……。 つまり彼は一応、一国の大使としてリュウイチ様をお訪ねになられます。 ああ……はい……。 なので、今回は一応、それなりの形式で式典を開こうと思います。 えっ、そうなんですか!? はい、ご不便はおかけしますが、リュウイチ様にもそういう行事に慣れていただいた方がいいかと思いまして……。 いやでも、既に一度会ってお食事も一緒にしているわけですしそんな
そのような話を聞かされたのは今朝のことだ。リュウイチからすれば乱暴この上ない話だが、現に事はすでに運んでしまっている。
アルトリウスさんも軍人ってことか……なんだか真面目で馬鹿丁寧な貴公子様って印象だったけど、やけに強引に進めようとすることがあるんだよな。
今朝、その話をしてから
言いたいことは分る。確かに、人々から敬われ
しかし、必要かどうかと受け入れられるかどうかは別問題だ。親戚や友人の
予定外の会議への割込みが決まった際は、これで大袈裟な式典も少しはなんとかならないかと多少期待したのだが、結局何ともならなかった。
仕方ないのは仕方ないんだろうけど……
エルネスティーネの長々とした挨拶の口上を聞きながら、リュウイチは苦笑いを噛み殺す。やはり面倒なのは面倒だ。そして同じように面倒だと思っているのはリュウイチの他にももう一人いた。
チッ……大袈裟に
あろうことか本日の来賓、マルクス・ウァレリウス・カトゥス本人である。
確かに貴族は特別扱いされることが好きだ。自分のために宴会を開いてもらったり、式典を催してもらったりするのを喜ばない貴族はまずいない。だが、それはあくまでもそうした催しが特別扱いだからだ。自分が特別例外だからだ。
今後はリュウイチに会うためには誰でも様々な手続きを経て、このようなセレモニーを通じて謁見という形をとらねばならなくなるだろう。であるならば、他の貴族と同じようにこのような式典を経なければならないのだとしたら、それは既に特別扱いでは無いではないか? そのような面倒な手続きやセレモニーをすっ飛ばして普通に会って気安く話を出来てこそ、本当の“特別扱い”になるではないか……。
実際、マルクスはサウマンディア貴族の中で最もリュウイチと会い、話をしている貴族である。彼自身、その自負がある。サウマンディア貴族の中で特別、自分だけが降臨者様と知己を得ることができているのだ……それなのにこのような式典を経ねばならないとしたら、それはむしろ自分と
これからこうした形をとらねばならなくなるのは理解できるが、しかし私の時からでなくてもいいだろうに……
アルビオンニア側のこうしたやり方にマルクスは不満を禁じ得なかった。だが、だからといってそれに文句を言えるわけでもない。彼らがやっているのはレーマ貴族として当然のことであって、仮にリュウイチがサウマンディウムに来て伯爵家が接遇しなければならなくなったとしても、同じようにするだろう。むしろ、今までがいい加減過ぎたくらいなのだ。リュウイチの降臨と同じ日に起きた
まあいい。すべてが
一歩ずつでも、確実に地歩を稼げばいいのだ。
アルビオンニア側貴族たちによってリュウイチとの距離を広げられてしまったマルクスではあったが、しかし彼がサウマンディア貴族で最もリュウイチに近い貴族である点は揺るぎない。今後もマルクスはリュウイチへの使者としての役割を担い続けることになるだろう。
その一歩を踏み出す機会はすぐに訪れた。挨拶の口上を終えたエルネスティーネが続けてマルクスの出番を告げる。
「ではこれより、
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