第313話 再燃
統一歴九十九年四月二十九日、朝 - 《
レーマ帝国では
ただし、基本的には側近たちに
手下たちの
しかし、リクハルドは今日は主だった手下たちを一堂に集めていた。別に定例の会議ではない。気になることがあったためだ。
草を編んで作られたマットを敷き詰めた大広間に、元海賊たちが椅子と呼ぶには低すぎるクッションに腰かけ、ほぼ胡坐をかくような姿勢で左右に向かい合わせで並んで座っている。それぞれの目の前には一ぺス(約三十センチ)四方の小さなテーブルが置かれ、その上には香茶の入った
「例のリュキスカの件だが…どうもおかしな雰囲気になってるみてぇだ。」
銘々、挨拶を済ませた後、リクハルドは上座に腰を降ろしたままおもむろに話を切り出した。
「
知っているはずのパスカルがあえてそのように質問するのは、出席者全員にリュキスカについて確認させるためだった。
「そうだ、例の正体不明の御大尽に連れ去られ、翌日に
その後、
「クィントゥス・カッシウス・アレティウス」
リクハルドが思い出せずに話が詰まると、ラウリがすかさず補足する。
「おう!そいつだ。そのカッシウス・アレティウスって
まあ、十分な金はもらってるわけだ、な?」
リクハルドがそう言うとラウリはこくりと頷き、続きを説明する。
「幸い、あの直後にイェルナクの野郎がセーヘイムに来てくれたおかげで、リュキスカの事なんざ誰も噂しなくなりやした。おかげさんで、口止めの方は
「済みそうだった…ということは、済まなくなっているのですか?」
ラウリの説明を受けてパスカルが質問すると、リクハルドがポンと膝を叩いて全員の注目を集めて話し始める。
「どういうわけか、ここんとこ今更リュキスカの事を調べようとする奴らが現れ始めた。一人や二人じゃねぇ。
アルトリウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス子爵公子…は、もともと頼まれてた。コイツぁリュキスカの身請けにも関わってるから不思議はねぇ。
だが、昨日は侯爵家の御用商人グスタフ・キュッテルがオレっちのトコに銀貨を積んできやがった。リュキスカの身元を洗ってくれとよ。」
「キュッテル…は、やっぱり子爵公子つながりでは?」
グスタフ・キュッテルはエルネスティーネの実の兄であり、そのつながりから侯爵家の御用商人になった男である。当然、アルビオンニアの
リュキスカを身請けした御大尽の正体はいまだに不明だが、アルトリウスが関係している以上キュッテルも関係していたとしても不思議ではないはずだ。
「いや、
「
リクハルドが腕組みしながらパスカルの疑問に答えると、ラウリが追い打ちでもかけるかのように否定する。
たしかに御大尽とリュキスカには
その後、クィントゥスはラウリを訪ねて身元調査を急ぐよう
つまりこれは
グスタフは確かにアルトリウスとつながりはあるかもしれないが、グスタフは侯爵家の御用商人である。つまり
にもかかわらずグスタフが出てきた。しかも銀貨を払って行ったということは、
「ということは、元々の依頼者である
パスカルが推理を巡らせるとラウリがそこへ更なる情報を追加する。
「それだけじゃねぇようだ。
《
昨日もたまたま
「ああ、そういやウチの店もそうだったぜ。」
ラウリの話を聞いて
「おいおい、随分と多すぎるじゃねぇか!?」
誰かが探りを入れようとしているらしいことは気づいていたが、どうやらリクハルドたちの予想以上に盛んに情報収集が仕掛けられていたようだ。
「これは…ただ事ではないようですね。」
「どうも、リュキスカに興味を持ってる奴が随分いるみてぇだな。
アルトリウシアには
だが、《
「この件で子爵家か、せめて
「侯爵家と子爵家以外の
「こりゃ
パスカルとラウリが相次いで言うと、列席していた手下たちは上座でうなっているリクハルドに目を向けた。
「まずは、誰がリュキスカに興味を持ってんのか調べにゃなるめぇよ。」
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