第978話 姉弟喧嘩
統一歴九十九年五月十日、未明 ‐ ブルグトアドルフ近郊/アルビオンニウム
魔法のことなんかクレーエには分からない。魔力のことも、
グルグリウスが従えているゴーレムは六体。だが《森の精霊》の《
一昨日、クレーエはエイーと共に《森の精霊》の
今、それと同じようなことが起きようとしている気がしてならない。
ひょっとしてこの《
自分で騙しておきながらまんまと口車に乗せられた《森の精霊》に不審を抱くクレーエも随分と身勝手ではあるが、今彼らの運命は《森の精霊》に頼り切っている以上彼女のオツムが御目出度いようでは困る。クレーエたちの安全のためには、何としてもグルグリウスを追い払ってもらわなければならないのだ。
しかしクレーエの希望に反して《森の精霊》は今まさにグルグリウスの口車に乗せられようとしていた。
「そうです
《
このグルグリウス、
『ふ~ん♪』
グルグリウスのおべっかに《森の精霊》はクルリと身体を捻って横を向き、片手を腰にもう片手を自らの胸に当てた。その表情を言葉に変換するなら「まんざらでもない」になるだろうか、クレーエの目にはかなり気取った様子に見える。
『
おいおい?
まさか
『でも』
《森の精霊》は再びクルリとグルグリウスの方へ向き直り、両手を腰に当てて前のめりになる。
『森で暴れたのは
火遊びなんて許せないわ!』
出来の悪い弟の
「それは
火を点けたのは
そう言うとズタボロになって気を失っているペイトウィンを突き出し、指さした。グルグリウスの言ったことは事実であったし、そのことは《森の精霊》自身も知っている。《森の精霊》は森のあらゆる生命体の集合意識のような存在だ。自分の
しかしそれでも《森の精霊》は納得がいかない様子で腕組みをする。
『
火を消してくれたのは助かったけどね。』
「
しつこい
『あ、
それを言われると弱い。グルグリウスの実力なら確かにそれくらい簡単に出来たはずだった。それをせず、わざわざペイトウィンの前に姿を現し、自らの存在と立場と役目を教えてやったうえに、あえて抵抗させて力の差を分からせてやろうとしたのはグルグリウスの自己満足以外の何物でもないのだ。その結果、無関係な森の樹々が焼かれ、少なくない生命が失われたのは言い訳の出来ない事実である。
「申し訳ありません
グルグリウスは今度こそ申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「《
《森の精霊》は口を尖らせ、ジトッとした目でグルグリウスを睨みつづける。そら見なさい……言葉にはしないがその表情はそう言っているようだ。
「でも
なるべく火を使わせないようにもしました。
それに
信じられないことだがそのおぞましい外見に似合わずグルグリウスは今にも泣きだしそうなしおらしさを見せている。さすがに追い詰めすぎたとでも思ったのか《森の精霊》の険も鳴りを
正直言うと《森の精霊》としてもグルグリウスの言い分はわからなくもない。膨大な魔力を貰って気持ちよくなって調子に乗るのは《森の精霊》もつい一昨日犯してしまった過ちだ。強大な力を与えられ、今までできなかったことが出来るようになって試そうとしない者など、そうはいないだろう。
《森の精霊》もつい自分の力を試したくなり、やりすぎて捕まえなくていいと言われた捕虜を捕まえ、処分に困った
『ふーん……まあ、いいわ。』
沈んでいたグルグリウスの表情がわずかに明るくなり、その期待の眼差しが《森の精霊》へと注がれる。
『森を荒らしたことは勘弁してあげる。
もう二度としないことね。』
「
どうやら許してもらえたらしいことにグルグリウスは喜びを露わにした。それがうれしかったのか《森の精霊》の表情もわずかに緩むが、それを隠すかのように《森の精霊》はスッと身体を横に向け背後のクレーエたちを指し示す。
『問題は、私の友達の方よ。
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