第807話 フロンティーヌスの決意(2)
統一歴九十九年五月十日、晩 ‐ アルトリウシア子爵邸/レーマ
ガッツポーズでもするように右拳を握りしめるフロンティーヌス・リガーリウス・レマヌスの目は
大丈夫かコイツ……
お坊ちゃん育ちでいい歳して未だに頼りないとおおよそ
それまで割とまともに見えていたフロンティーヌスは
さすがは『
よくもまあ仕事そっちのけでポンポンと歯の浮くようなセリフを吐けるもんだ。
正直言って相手にしたくない。
たしかに見てくれは良いかもしれないがいい歳して十四の娘に
だがそれでもフロンティーヌスは元老院議員であり、アレクサンデルがアルビオンニア属州へ行くための旅費を捻出するための金づるでもある。アルビオンニア属州まで行くのならついでに便乗させてやるという
しかし、だからと言って理性と感情の折り合いをうまくつけるにはアレクサンデルにはまだまだ時間が足りていなかった。つい、心の内に秘めるべき愚痴が口をついて出てしまう。
「やる気を出してくれるのはありがたいが、ホントに大丈夫なんだろうね?
「心配は無用だとも!」
「!?」
まさか当の相手に聞かれると思ってもみなかったボヤキにフロンティーヌスが反応したため、アレクサンデルは大いに驚いた。
ヤベッ、口に出ちまったか!?
アレクサンデルは今回叛乱を起こしてしまった
だが、もしも
しかし、うっかり口を滑らせたせいでフロンティーヌスを怒らせでもしたら、アルトリウシアまで行くだけの旅費を賄うだけの金が捻出できないアレクサンデルはアルビオンニアに行くどころの話ではなくなってしまう。行けなければ捕まって死刑になるか、逃亡の果てに野垂れ死ぬしかない。
思わず手で口を押えたアレクサンデルだったが、既に薄暗くなっていたためその顔色をフロンティーヌスに見られることは無かったようだ。もっとも、今のフロンティーヌスにアレクサンデルの顔色が見えたところで気にしたかどうか怪しいものだが……
「僕たちの目的は一つだ!
降臨者様と帝国の橋渡しをし、帝国に平和と繁栄をもたらすんです!
それは
そうでしょう!?」
「お、おう!」
一人で盛り上がるフロンティーヌスの熱意はアレクサンデルの思っていた以上だった。
ここ数年、やることなすこと失敗続きですっかり
その彼からすると、フロンティーヌスのこの盛り上がりようは到底理解の及ぶものでは無かった。勢いに飲まれる形で思わず相槌を打ったが、気分はすっかり置いてけ堀をくっている。
「僕は今まで間違えていた。
正直、アルトリウシアなんて聞いたことも無い辺境へなんか行きたくなかった。
でも、今は違う!
今日、
「な、なにが?」
「僕たちの任務の
何処とも知れぬ辺境の地なんかどうでもいいと思っていたが違うんだ!
辺境の人々こそが、帝国の繁栄を力強く下支えする大切な存在だったんだ!
そんな人々を守るために、帝国を代表し、
これほど名誉なことがあるんだろうか!?」
「…………」
「僕は決めた!
空を見上げているにもかかわらずフロンティーヌスの表情は夕闇の暗さではよく見えなかったが、それでもキラキラとした目の輝きだけは認めることができた。
やべぇ……こいつ、ホンモンだ……
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