第1292話 予想外の綻び
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐
悪さをしないならば、そしていずれ出頭してくれると約束してくれるならば、これ以上
その
カエソーの期待は自分でも
そんなカエソーの内心を知ってか知らずか、ティフは顎に手を当てて考え始める。
戦いは控えるという方針自体は既にメンバーで共有していることだ。
レーマ軍の要求を飲むこと自体は問題ない。
問題なのは『
さすがに正当防衛まで封じられるのはまっぴらごめん……メンバーの誰も承諾しないに違いない。
ティフはジロッとカエソーへ視線を向ける。
レーマ軍は追い立てないと言った……問題は
「おい」
顎に当てていた手を降ろしてティフはカエソーに呼びかけた。
「『
レーマ軍の側から、『
「……約束しましょう」
ティフの視界の隅でホブゴブリンの百人隊長が戸惑うようにカエソーへ視線を向けるが、他とは違う格好をした年嵩のホブゴブリンの老兵だけはジッとティフを見つめている。
「本当か?
街道の警備をしている兵士とか、街の代官の兵士たちもか?」
街道や街の治安を維持しているのは
「私の名で通行証を発行しましょう。
アナタ方は
「メルクリウス捜索?」
「メルクリウス目撃の報を受け、サウマンディウス伯爵の総指揮の下で現在捜索活動が行われています。
アルビオンニア属州の兵士もメルクリウス捜索に関してだけは伯爵の指揮下に入りますから、私の発行する通行証を見せれば
アルビオンニア属州内であれば
今度はヒトの百人隊長も動揺しはじめる。が、動揺しているのは実はティフもだった。自覚はしてないが妙に美味しすぎる話に表情が歪み始めていた。
「
あの《
ほくそ笑みながらも用心深く尋ねるティフに、カエソーは半ば呆れて思わず苦笑いを浮かべる。
「《
アナタ方が
その答にティフは満足しなかったらしい。何か屋台でインチキ商品を見つけた客のように目を細め、仰け反るように上体を伸びあがらせてカエソーを見下ろす。
「《
他の
「他の
困った様子のカエソーにティフは突っかかるように顔を突き出した。
「ブルクトアドルフの《
そうだアルビオーネだ!」
ティフはハッと思い出したように目を見開いた。
「アルビオーネが俺たちの前に現れて言ったぞ!
彼女が忠誠を誓う尊い方の意向で、俺たちに海を渡らせないってな!!
それって《
カエソーは面食らったように口をへの字に引きつらせて小さく仰け反った。カエソーはアルビオーネの存在も知っているし、アルビオーネがどうやら協力してくれているらしいこともルクレティアから聞いて知っている。だが、リュウイチとアルビオーネの間にどんなやり取りがあってアルビオーネが何をどの程度、どのように協力しているかといった詳細までは知らなかったのだ。
「どうなんだ!?」
「どうなんだと申されましても……」
「誤魔化すのか!?」
「いえ、私はアルビオーネ様の事は聞いておりますが、《
私が知っているのは《
これはティフには聞き苦しい言い訳としか思えなかった。
「閣下は《
人差し指まで突き付けて追及してくるティフにカエソーは困惑しつつも両手を挙げた。
「それは本当ですよ。
ですが、その御方が《
それを聞くとティフはドスンと寝椅子に全体重を投げ出し、ふんぞり返った。
「じゃあ約束なんか最初からできないんじゃないか!」
ガッカリだ!!……そんな気分をティフは言葉のみならず全身で表現していた。慌てたのはカエソーである。
そうでなかったとしてもここで交渉が破綻すればティフを逮捕しなければならなくなる。これがティフの側に問題があったせいでというならまだしも、カエソー側に問題があったせいで破綻し、そのせいでティフを強引に逮捕してハーフエルフたちのサウマンディアに対する心象が悪くなったら、カエソーの面子が立たなくなってしまうではないか。
「待ってください、そんなことはありませんよ!」
思わず身を乗り出すカエソーとは対照的にティフはみっともないくらいに椅子の背もたれに全体重を預けたまま首を左右に大きく揺する。
「だってレーマ軍がいくら通行証をくれて攻撃されなくなっても、
そんなんじゃ約束なんてしても意味ないだろぉ~?」
「そんなことにはなりません!
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