第1077話 捕虜の扱い
統一歴九十九年五月十一日、午後 ‐
「
せっかく捕えた
ざわめく貴族たちの様子に初めてそう言えば言い忘れてたと気づいたかのように、ゴティクスは会議室内に視線を走らせながら声を張る。
「
このことは先日、現地からの
騒いでいた貴族たちはゴティクスのその一言によって、戸惑いながらも静まりを見せた。ゴティクスにとって意外だったのは、ゴティクスの説明によって静かになった貴族の中にマルクス自身が含まれていたことである。
何故、カエソー閣下が
唖然としているマルクスにゴティクスは改めて向き合い、説明を続けた。
「
「で、では閣下は今、
ゴティクスは黙って首肯し、今朝届いた手紙で分かる限りの一昨夜の様子を騙り始める。
「一昨日夜、シュバルツゼーブルグに
内容は先ほども御説明いたしました通り、
この時、脅迫状を届けたのは
「んっ、んんんんん~~~っ」
マルクスは頭を抱えたくなるのを辛うじて堪えた。
ほんの五日前の五月六日、マルクスはカエソーを残してアルビオンニウムからサウマンディウムへと発った。同じ船で捕虜もサウマンディウムへ送ってしまえればよかったが、まさか捕虜をイェルナクと同じ船に乗せて『勇者団』の存在をイェルナクに気づかれるようなことがあっては困るからそれはできなかった。
イェルナクと捕虜は別の船に乗せねばならない。しかし、捕虜を先にサウマンディウムへ送ってイェルナクをアルビオンニウムに残せば、また『勇者団』が何かしかけてくれば今度こそ隠せないかもしれなかった。だからどうしてもイェルナクの方を先にサウマンディウムへ送らねばならなかった。
そしてイェルナクが捕えた盗賊どもを引き連れてサウマンディウムへ帰るのであれば、そのイェルナクがプブリウスに余計な報告をする前に誰かが真実を報告しておかねばならなかった。そのため、マルクスはカエソーに先んじて船に乗ったのである。
カエソーは翌日、捕虜とヴァナディーズを連れてサウマンディウムへ帰って来る手筈になっていた。少なくともマルクスが出発する時はそのようになっていたはずである。
それなのに何故……アルビオンニア側に“借り”を作らないようにとあれだけ言っていたのに……
捕虜を出してしまった以上、『勇者団』は確実に奪還を試みるだろう。それは目に見えていた。だからなるべく早く捕虜を船に乗せ、サウマンディウムへ移送すべきだったのだ。ルクレティアを護衛していた
だが現実には違った。カエソーはどういうわけだか陸路でアルトリウシア経由でサウマンディウムに帰るルートを選んでしまったらしい。
それならば確かにずっと《地の精霊》の支援を受け続けることが可能になるだろう。『勇者団』が襲撃を試みたとしても《地の精霊》の支援があるならば恐れることは何もない。だがそれではルクレティアに、アルトリウシアに、アルビオンニアに“借り”を作ってしまうことになる。
いったい何を考えておられるのか……
いや、“借り”だけの話ではない。
捕虜を連れてルクレティアに同行すれば《地の精霊》に守ってもらえるのだから確かに安全は担保される。だが同時に『勇者団』の新たな捕虜をアルビオンニア側に取られてしまう可能性が飛躍的に高まるのだ。
捕虜となった仲間が手の届くところにいるのだから『勇者団』は積極的に襲い掛かって来るだろう。襲ってきたら対処せねばならず、必然的に《地の精霊》の力を借りることになってしまう。《地の精霊》の力を借りればそれは必然的にアルビオンニア側に対する“借り”になってしまうし、『勇者団』の実力では強大な《地の精霊》にどうやら叶いそうにないのだから新たな捕虜を《地の精霊》の力で得ることになる。当然、その功績は《地の精霊》に……ひいてはルクレティアに……つまりはアルビオンニア側に渡るのだ。捕虜の身柄への権利もアルビオンニア側に残される。
たしかに『勇者団』にメルクリウス団の容疑がかかっている以上、捜査権はサウマンディア側にあるのだから捕虜の身柄はどのみちサウマンディウムへ引き渡されることになるのだが、しかしそれは捜査中の話だ。『勇者団』を捕えたという功績そのものがアルビオンニア側に残されている以上、捜査が終わるなりひと段落つくなりすればアルビオンニア側へ引き渡さねばならなくなる可能性が生じる。
まったく何を考えておられるのか……
マルクスは何かを振り払うように首を振った。
「それで、ハーフエルフ様は
「おそらくそうでしょう。」
「おそらく!?」
「グレーター・ガーゴイルにハーフエルフ様を捕えるように御依頼なされたのは他でもない
「命じたのは《
「
詳細までは分りませんが……お読みになられますか?」
ゴティクスは半ばあきれた様子で手紙を手に取り、マルクスの方へ差し出した。
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