第1024話 老将の見解
統一歴九十九年五月十日、午後 -
サウマンディア側の支援部隊幹部将校を招いての軍議は、
「
「
ティーフルトゥムは果物の果汁を煮詰めて作ったシロップを水で薄めた飲み物である。《レアル》現代日本風に表現するなら濃縮還元ジュースといったところだが、基本的に子供用の飲み物であり大人が好んで飲むものではない。レーマ帝国ではワインはシロップを思わせるような極端な甘口のがもてはやされるのに、甘くはあってもワインよりはよっぽどスッキリと淡麗なテーフルトゥムを大の男が飲むのを良しとしないのはレーマ文化の面白いところであろう。
「酔い覚ましにはアレが一番さ。
一度試してみるといい、二日酔いの時の
スプリウスのやや険のある疑問に、マルクスは気にすることなく答える。見ようによっては本当は相手にするのも嫌だとでも言わんばかりだが、そうでもない。
相変わらずマルクスの顔は青いが、マルクスは二日酔いでダウンしているのは演技だとでも主張するかのように、左右の肘掛けに両手を突っ張ると姿勢を正す。
「さてと……
スプリウスと同様、
「はい、復旧復興自体は驚くほどのハイペースで順調に進んでおります。
建材を中心に物価が急激に上昇しておりますが、アルビオンニア侯爵、アルトリウシア子爵の両領主により潤沢な食料配給が受けられるため領民たちの間で深刻な不満は生じておりません。
配給対象外となっている贅沢品を必要としている
この辺りのバビルヌスの報告はサウマンディアにも伝わっていることであり、マルクスやスプリウスにとっては状況の再確認といった程度の意味しか持たない。物価の急激な上昇はサウマンディアにも波及しており、特に建材が飛ぶように売れていて、サウマンディアの住宅着工件数はその影響で下降しつつある。大工など建築業者たちの業績や景気への悪影響が懸念されるが、サウマンディア側は領内の大工を徴収して今回、
ただ、そうした対策が取れているのは建築業だけの話であって、それ以外はというと何もできていないのが現状だ。特に食料価格の高騰が深刻で、アルビオンニアでは食料の配給が行われているので
アルビオンニアに不必要に支援するからだ。他所の領民より自分の領民を大事にしろ!!……という声はサウマンディウムの酒場ではチョクチョク聞かれるようになってきている。
「アルトリウシアの経済について我々が心配しても仕方がない。
治安や軍事情勢はどうなっているのですか?
逃亡したはずの
スプリウスはバルビヌスに先を促す。彼と彼の部隊はどのみち人里から離れて復興事業に従事することになるので、アルトリウシアの経済や政治情勢について気にしても仕方がないと考えていた。
それよりも気になるのはハン支援軍の動向とアルビオンニア側の叛乱軍への対応である。スプリウスの第三大隊は
「緊張は確かに高まっているな。」
バルビヌスの顔に影が落ちる。
「アルトリウシアの南を流れるセヴェリ川……その向こう側に広がるアルトリウシア平野に
我が
領民どもは
そう言うとバルビヌスは重苦しくため息をついた。彼も一応経験豊富な軍人である以上、アルトリウシア軍団の置かれた状況については十分理解している。まして降臨者リュウイチの存在を知り、それを踏まえたうえで偶発的な戦闘が起きないよう最大限の注意を払うように命令されている身だ。そんな彼にとって、いくら降臨者リュウイチの存在について知らされていないからとはいえ、自分たちの生活支援の都合すら忘れて「
「しかし、いずれ討たねばならんことに違いはありますまい?
伯爵閣下は小官の
スプリウスとしては同僚であり若い頃の上官であり、同時に指導を賜った先輩でもあるバルビヌスと認識を共有しておきたかった。バルビヌスの第二大隊が作業を行っているアイゼンファウストは現時点で最前線に最も近い地域である。もしも意図せず戦闘が発生するとすれば巻き込まれるのはスプリウスの第三大隊ではなく、彼の第二大隊であるはずだ。バルビヌス自身、それはよく理解している筈で、もっとも危険な地域で活動する彼がどう感じているかは知っておいて損はない。
バルビヌスはスプリウスが戦闘を求めているかのように感じたのか、彼を諫めるように、あるいは彼への同調を拒絶するように首を振る。
「既に小規模な偶発的な戦闘は発生しておる。
しかしワシは、連中、随分危ない橋を渡っとると思うておるよ。」
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