第182話 潜伏準備
統一歴九十九年四月十七日、午前 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
リュウイチとリュキスカの
その間、奴隷たちはルクレティアとヴァナディーズの
朝食を終えたリュウイチが
そこは二階の角部屋だった。
私的エリアの二階のすべての部屋は
『じゃあ、
「うわっ、兄さんの部屋も広かったけどここもまた随分広いじゃないか!?
ホントにこんなトコ使わしてもらっていいのかい?」
『
どうせ使用人部屋だろうし寝起きするのにベッドと少しの荷物を置ける程度の広ささえあれば十分だと思っていたが、ここにはそれだけでは飽き足らず人が寝れそうなテーブルとそれを挟むように
ベッドもリュウイチの
天井は高くてやたら太い梁が渡されているが、それらはタールで黒く塗られている。しかし、壁にはあかるい黄色を基調とした壁紙が貼られていて、天井近くに採光窓があるため暗さはあまり感じない。
リュキスカが「はぁー・・・」と感嘆の声を漏らしながら、阿呆みたいに口をポカンと開けたまま室内を見回す。
『あれ、赤ちゃん用のベッドは?』
「あぁ・・・そんなモンは多分ココにゃあ無ぇですが、探させやす。
もしかしたら注文する事になるかもしれやせんが、そしたら少しお時間を頂く事になるかもしれやせん。」
リウィウスが申し訳なさそうに言うと、リュキスカがクルっと振り返って今日初めての作り笑いじゃない笑顔を見せた。
「いやぁ、何か悪いねぇそんなにしてもらっちゃって。」
「とんでもねぇこって、んじゃあ部屋の中のモンの御説明をさせていただきやす。」
リウィウスがリュキスカに部屋の中にある物の説明を始める。
どこに何があるか、何をどうすればいいか・・・などだが、そもそもリュキスカ自身の持ち物があるわけではないので、予備の
リュキスカは物珍しさからイチイチ、へぇとかホォとか大袈裟なくらいに声をあげて驚いている。
「へぇーっ、コレがおまる!?
ただの椅子にしか見えないね。」
「こうしてフタを外すとホレ、穴が開いてまさ。
で、中のこの真鍮の容器がおまるで・・・」
「はぇーっ!真鍮のおまるなんて初めて見たよ。」
「フタを開けて、ここに座って用を足すんでさぁ。
で、終わったらこの肘掛けンとこのフタを開けると、ケツ拭き用の
使い終わったら言ってくれりゃおまるは交換しやすんで。」
「はぁーっ・・・
いやはや、贅沢だねぇ。
で、拭いたのはどうすんだい?」
富裕層になると何らかの布を使う。富裕層本人は使い捨てるが、使い終わった布は使用人や奴隷たちが回収して洗って数回使いまわす。
リュキスカは
「ああ、おまるん中へ捨てて下せぇ。」
「え!?捨てちゃうのかい?
洗って使うんじゃなくて!?」
「あ・・・」
リウィウスは思わず絶句する。ホントは使用済みの尻拭き布巾用の回収容器があったのだが、ココでは使われていなかった。
使用済みのおまるを集めてリュウイチが浄化魔法をかけるとアラ不思議。おまるから汚物が消えて、中には新品のように綺麗な尻拭き用布巾だけが残されている・・・というのがココでのやり方だったのだ。
リュウイチの浄化魔法の事も当然隠さねばならない事なのに、リウィウスはついいつも通りのやり方について話をしてしまった。
どうする?どう誤魔化す?
「さすが
「あ、ああ・・・まあな。」
幸い、リュキスカは
「で、その汚れ物が出たってどう知らせりゃいいんだい?」
「え?」
「さっき
アタイも他の人に見つかっちゃいけないんだろ?」
「あ、ああ・・・それを分かってくれんなら話が早ぇや。
一応、一時間か二時間に一遍誰か見回らせる。
そん時にドアの下の隙間から目印に何か出しといてくれりゃ、そん時に見回った奴がタイミング見計らって戸を開けて用事を訊く・・・そんでいいか?」
「ふん・・・わかったよ。」
「っと・・・言葉遣い、言葉遣い・・・説明はこれで全部でやすが、何か訊きてぇことや分かんねぇ事はありやすか?」
「いや・・・多分大丈夫だよ。」
後ろで様子を見ていたリュウイチが声を声をかけた。
『終わったんならこっち来てもらっていいかな?
服を選んで欲しいんだが』
振り返ると
「ちょっと兄さんアンタ、コレ出した時もそうだったけど、こんなにイッパイどこから出したんだい!?」
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