第1171話 『勇者団』出立
統一歴九十九年五月十日、晩 ‐ 『
ホントに行かれるんですか?今日一晩くれぇ休んでいかれた方が…… くどいぞ、ペイトウィンが捕まったのが分かった以上、俺たちは助けに行かなきゃいけないんだ。 しかし今から行っても間に合わんでしょう? 大丈夫だ、
ティフたちはクレーエから話を聞いた後、一時間ばかり仮眠をとって山荘を発った。もちろん、
行ってくれたか……
一晩泊っていくかと思ったが、急いで行ってくれて助かったぜ。
ティフ達の姿が見えなくなるとクレーエは安堵の溜息をついた。今朝の濃霧が嘘みたいに綺麗に晴れ渡った空には月と星々とが冷たい光を放っている。その光を受け、クレーエの吐いた溜息は白く染まった。
あんな連中に
ティフ達がペイトウィンを救出に行くだろうとは分かっていたが、しかしその日のうちに出発してくれたのはクレーエにとってうれしい誤算だった。
「行かせちまって良かったんですかい?」
盗賊の一人が尋ねる。その声にはどこか未練がましい雰囲気が漂っていた。もちろん盗賊たちはティフたちと一緒に居たかったわけではない。盗賊たちに『勇者団』に対する忠誠心なんてものは
「
あのまま『
『勇者団』はムセイオンから脱走してきた聖貴族たちだ。彼らは昨夜、グルグリウスによってそのことを知らされた。捕らえられたペイトウィンの頭巾をはぎ取り、ハーフエルフ特有の長い耳を見せつけたのだった。
ハーフエルフ……絶大な能力を誇るゲーマーの中でも特に魔力が高いハイエルフの血を引く聖貴族は存在するだけで
だがクレーエはヘッと短く笑った。
「馬鹿言え。
そんなことすりゃ、ガキども
「そんなもんかねぇ。
アンタならうまくやれんじゃないのかい?」
「無理だね。」
さっきまで笑っていたクレーエのあしらいは急に冷淡なものに変わる。
「『
いくらあいつ等が本物のゲイマーの血を引く聖貴族だからって、こんだけのことをしでかしてタダで済むわけがねぇ。誰かが責任を取らされることになるだろうさ。」
「俺たちが『
クレーエは思っていた以上にお気楽な物言いに思わず呆れた。多分、コイツは盗賊になりたてで
「俺たちゃ俺たちで縛り首さ。
俺たちゃ元から盗賊だったんだからな。
『
俺たちが『
聖貴族様を売った裏切り者の賊に汲むべきことなんか一つもありゃしないのさ。」
レーマは裏切りを許さない。たとえそれが敵側から自陣営に裏切った者であっても評価されることは無い。基本的に卑怯者と見なされ、常に一段低くみられることになる。王侯貴族でさえそういう扱いを受けるのだから、法の外にいる彼ら盗賊ともなれば、もう人間扱いしてもらえることを期待する方が無理というものだろう。
「おいっ!」
さっきまで大人しかった盗賊が悲鳴に近い声をあげた。
「アンタ、アンタについて行きゃ俺たち全員盗賊稼業から足を洗えるって言ったじゃねぇか!
アリャウソだったのかよ!?」
「ウソじゃねぇさ!」
クレーエが盗賊に負けないくらい大きい声で言い返すと、盗賊はビクッと身体を震わせた。そして急に不安に囚われたかのように身体を縮こませ、震える瞳でクレーエを見つめる。
「だって、だってアンタ、さっきさぁ。」
「このまま『
だから
盗賊を励ますかのように言うとクレーエは盗賊の隣に回り込み、その肩に腕を回してガシッと抱く。
「いいか、幸い
俺たちゃ
そのうえでレーマ軍に引き渡すんだ。
わかるか?」
「あ、ああ……」
盗賊はクレーエの話を理解しきれていないのか、あるいはイメージがわかないのか、どこか浮かない様子である。クレーエは盗賊を抱き寄せ、楽しくてたまらない様子で声を潜めた。
「そん時、俺たちゃ
罪を犯していない聖貴族様を
わかるか?」
クレーエに肩をゆすられながらそう言われると、ようやくクレーエが何を目指しているのか理解したらしく、盗賊の表情はパァッと明るくなった。
「う、上手くいくかな?」
「上手くいかせるのさ。
今のところ上手くいってる。
だが重要なのはこれからだ、分かるか?」
「あ、ああ、分かるよ。
何でも言ってくれ。
俺たちゃアンタについて行くって決めてんだ。」
クレーエは盗賊の肩を抱く腕を解き、満面の笑みを見せた。
「頼もしいぜ。
お前たちが協力してくれんなら上手くいくさ。」
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