第1384話 オトの拒絶
統一歴九十九年五月十二日・午前 ‐
オトは耳を疑い、目を剥いた。ゴルディアヌスの言っていることの意味がわからなかったわけではもちろんない。意味が分かっているからこそその重大性も明らかだったし、ことの重大性が分かっていたからこそそんな重大なことを目の前の同僚が言い出したことが信じられず驚いたのだ。
「お前、正気か!?」
「何かおかしいこと言ったか!?」
キョトンとしたゴルディアスの反応にオトは困惑の表情を浮かべ、何をどう説明すべきか頭をフル回転させて考え、そして一旦諦めた。さすがに一から説明するのは面倒すぎるし、一緒に奴隷に堕とされた同僚が本当に何も知らないとは考えにくい。ひとまずゴルディアヌスも本当は分かったうえで言っていると仮定してどういうつもりか確認することにし、それまでの雑念を振り払うように頭をブルブルと振った。
「ゴルディアヌス!
お前だって大協約は知ってるだろ!?
《レアル》の
「知ってるさ!
それがどうした!?」
お道化て見せるゴルディアヌスはオトの指摘などまるで意に介していないようだ。
「なら無理だって分かるだろ!?
それを侯爵家のために使えば、侯爵家が罪に問われるんだぞ!」
「だぁーかーらっ、
言っている意味が分からずオトは眉を
「
カール様やフェリキシムス様のことだって御助けになられたんだ。
俺たちだって
けど、
だから俺は、
オトは不可解そうにゴルディアヌスの目を注意深く観察し、しばしの沈思黙考の末に首を振った。
「わからん!
お前、何を言ってるんだ?
「そうだよ!
お前、
だから、お前から
そうすりゃあ、
ゴルディアヌスが自慢げな態度なのは
「そんなわけないだろ!?
《
《
「まぁ待てよ。
俺たちだって飯は食うだろ?
折れもお前も、厨房の料理人どもが作った飯を毎日食ってる。
じゃあ俺たちの働きは料理人どもの力ってことになるのか?
違うだろ!
《
《
でも《
だからその《
聞いちゃいられない……オトはゴルディアヌスの話が終わる前から首を振り始めた。
「ゴルディアヌス、そうはならんよ」
「何でだよ!?
《
この世界にだってごまんといらっしゃるんだ。
その
抗議するゴルディアヌスをオトは無言のまま冷めた目で見つめ、そして一つ溜息をついた。
「ゴルディアヌス」
「何だよ!?」
「お前だって
逆に
俺たちゃそれで
ゴルディアヌスは突然始まったオトの話が自分がしようとしていた話とどう関係して来るのかわからず、眉を顰める。
「それがどうかしたのか?」
「それと同じだって話だ」
オトはフーッと盛大に息を吐き、呼吸を整えて続ける。
「連帯責任ってやつさ。
被保護民がヘマをすれば保護民の恥になる。
被保護民が何かやらかせば、保護民がやらせたんだと誰もが思う。
実際はどうあれ、一括りにされちまうんだ」
ゴルディアヌスは神妙な顔つきになり、口を真一文字に引き結んだ。オトが言いたいことに気づいたのかもしれない。オトは内心でようやく話が通じたかと期待を持ちつつ話を続ける。
「《
《
ましてや《
バレれば世間は間違いなく
つい一昨日、便所掃除の仕事から逃げ出そうとしたアウィトゥスを連帯責任という根拠に基づいて説教をしてみせたゴルディアヌスだ。それまで力任せに己の我儘を通すことこそが男らしさと勘違いしていたゴルディアヌスは社会人として一つ大きな成長を遂げたことを、オトは確信していた。そのゴルディアヌスなのだから、連帯責任を根拠にすれば理解してくれるだろう……そのオトの期待はどうやら間違いではなかった。ゴルディアヌスは自分の考えが及んでいなかったことに気づいたらしく、酷く動揺して目を泳がせながら頭を巡らす。だが、次にゴルディアヌスの口から飛び出した言葉は、オトを失望させるには十分なものだった。
「バ、バレなきゃいいんじゃねぇのか!?
《
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