第323話 八方ふさがり
統一歴九十九年四月三十日、昼 - マニウス要塞司令部/アルトリウシア
午前中に
エルネスティーネたち侯爵家の人々も既に
「我々のために銀貨を追加で手配なさろうとされたというのか?」
ラールの報告を受けたルキウスは半分呆れたような表情を作って驚きの声をあげた。
「はい、どうやら昨日の報告と、その前の報告から我らの状況を察し、我らの信用が低下してより多くの現金が必要になるであろうと予知なされ、先に手を打たれようと
「さすがは《レアル》の
ルキウスはそう呟くと顎に手をやり、口角をゆがめて床に視線を落とした。
「何か?」
どこか
「いや、実は今日キュッテル殿から同じような話が出たのだ。」
「キュッテル商会のグスタフ殿ですか?」
「そうだ。アルビオンニア侯ご破算という噂が流れておるそうだな?」
ギロッと睨むようにラールに視線を向けると、ラールは痛いところを突かれたように眉を一瞬跳ね上げ、ゆっくり息を吐きながら残念そうな顔を浮かべた。
「申し上げにくいことですが、その通りでございます。」
「
「はい…まだ囁かれ始めて五日と経ってはおりませんが、ご報告をせねばとは思っておりました。」
地域の経済市況について報告するのも御用商人の役目の一つである。噂も報告の対象だ。しかし、噂というものは報告すべきかどうかの判断が難しいことがある。全く
ラールもアルビオンニア侯爵家が破産するとかアルトリウシア子爵家が破産するという噂はキャッチしていた。だが、その手の噂は毎年のように囁かれるようなものでもあった。特に一昨年の火山災害以降はずっと囁かれ続けていると言ってよい。そのため、報告すべきかどうか判断に迷っていたのは事実だった。
「フーッ」
ルキウスは右手で顔を覆い大きくため息をついた。
「
「
「その表現はいささか大袈裟かとは思われますが…」
ラールが慰めるように言うと、ルキウスは顔を覆っていた手を再び打ち付けるようにひじ掛けに戻すとラールに顔を向けた。
「だが、保証金や手付金という名目で前払いを請求されるようになってきたのだろう?」
「それは残念ながら事実にございます。」
「リュウイチ様のことを公表するか、さもなければすべての取り引きを現金で行えるように現金の準備高を高めねばならんと言っておったぞ?」
「『すべての取り引きを』というのは大袈裟ですが、しかし私も
ルキウスは目を閉じ、額を揉みはじめた。グスタフの言うことを信じないわけではなかったが、グスタフは時に物事を誇張して言う癖がある。いや、
「だが、リュウイチ様のことを公表するのは出来んぞ。それに現金の準備高を増やそうにも現金化できる物などどこにも無い。」
そんなものは一昨年の火山災害対応の際にあらかた現金化してしまっている。宝飾品や美術品等が無いわけではないが、
だが、リュウイチが動いてくれるというのであれば都合がいい。借金を重ねることに引け目を感じないわけではないが、当人が利用される気でいてくれるのであれば力を借りるのがいいだろう。
「それで、リュウイチ様の申し出はお受けしたのか?」
「何故だ!?」
ガバッと身を起こして自分の方を向いたルキウスに、ラールは小さくため息をついてからリュウイチにしたのと同じ説明をした。
「《
その間、急いで銀貨が必要となれば
「ああ、そうか…そうだな…」
言われてみれば当たり前の話である。ルキウスは自分の間抜けさに気付いて自己嫌悪に陥り、天井を仰いで自らの額をピシャっと叩いた。
「それで《
ルキウスに同情し、慰めるようにラールが言うとルキウスはギョッとしてラールの方を見た。
「
もしもリュウイチがアイテムを提供してくれるというのなら、とんでもない値がつけらえるに違いない。
「はい、いくつか
「どうだったのだ!?」
ラールは首を振った。
「いずれも品質が高すぎます。あれらを売るのは世間に降臨があったと宣伝するようなものでしょう。」
「うっ、うーむ…」
ルキウスはため息をついて肩を落とした。考えてみれば当たり前のことだった。
「八方ふさがりか…」
「こればかりは…《
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