第1107話 リュウイチの介入
統一歴九十九年五月十一日、午後 ‐
リュウイチの声が響いた瞬間、室内にいた全員がビクリと身体を震わせてその身を硬直させる。若き
リュウイチは装備した
貴族たちの様子から即座にそのことに気づいたリュウイチは内心で「不味い」と反省しつつ、小さく深呼吸して気持ちを落ち着かせるとなるべく気持ちを込めないように語り掛けた。
『女性を、まして具合の悪くなった人をそう言う風に扱ってはいけません』
「……は、はい……いや、しかしリュウイチ様……これはその……」
マルクス自身は『ソロモン王の指輪』の効果を受けたことに気づいていない。『ソロモン王の指輪』による効果は対象の無意識に作用する。念話を通じて言われたことを、その通りにしたくなる、あるいはその通りにするのが良いことのように思えるようにするものなのだが、理性によって
リュウイチの込めた魔力は強くは無かった。少なくとも、面と向かい合った人間に対して何かを強要してしまうほど効力を発揮するものではなかったが、意識レベルが低下していたり、先ほどのように不意を突かれる形になると効果が現れやすくなってしまう。リュウイチに強く呼びかけられた時、マルクスの意識はグルギアにだけ向けられていたため、不意を突かれる形となったマルクスには『ソロモン王の指輪』が過度に作用してしまったのだった。が、今は意識がリュウイチに向けられたために、リュウイチが先ほど呼びかけた時と同じ程度に話しかけたとしてもマルクスが服従してしまうことは無かっただろう。
どうやら失敗してしまったらしいという現状への気づきはマルクスをひどく動揺させてはいたが、リュウイチに服従しなければならないというような意識は全く働いていない。ただ、マルクスの意識はとにかくこの場を切り抜けねばという一点に集中されており、リュウイチに何とか弁明を試みている。そのマルクスを、リュウイチは宥めた。ひとまずマルクスを落ち着かせなければ、あのグルギアという女奴隷はこのまま苦しみ続けることになる。
『大丈夫です。事情は、何となくですが察しました。
ですが、その女性の具合が悪いのは確かなんですから、どうにかしないと。
このまま無理に立たせててもどのみち話はできません。
別室で休ませられないというのならせめて椅子に座らせましょう。
そうすれば、話を聞くくらいはできるでしょう?
ひとまず彼女はその場にしゃがませてください。
貧血ならそれだけで症状がだいぶ楽になる』
そこまで言うとリュウイチは背後に控えているネロに指示を出し始めた。その様子を見てマルクスは失敗はしてしまったものの、まだ取り返しは付きそうなことに気づき、気を取り直すために小さく咳払いすると仕方ないとでも言いたそうな表情でグルギアを掴む腕をゆっくり下げてグルギアをその場に座らせた。グルギアはしゃがもうとしたようだったが、バランスを崩してその場にへたりこむように横座りしてしまう。
『ネロ、彼女に椅子を用意して……
あー、あと彼女はどうも顔色が悪いようだ。
薄着だし、もしかしたら寒いのかもしれない。
これを着せてやって』
リュウイチはネロに命じながらストレージから濃い灰色のフード付きのローブを取り出した。『見習い魔法使いのローブ』……色といい形といい見た目は地味そのもの。後付けで魔法効果を付与することが出来るが、リュウイチのストレージにいくつもある真っ
しかし、リュウイチにとってはゴミのようなツマラナイ代物でも
『ロムルス、彼女に何か飲み物を!
温かいのがいい。身体が温まって気分が落ち着きそうなのを……
そうだ、御茶だ。温かい御茶に砂糖をたっぷり入れて甘くして持って来て!』
「リュウイチ様!」
見かねたルキウスが動揺を隠さず、リュウイチを
「さすがにそれは……見ず知らずの
何もない空間から取り出した物……それは間違いなく聖遺物。《レアル》の産物はこの世界にとって貴重な宝物であり、本来ならムセイオンに集められて管理されるべきもの。魔法効果のない物と確認されればムセイオンに収蔵されることなく元の持ち主に返されることもあるが、そうした物でさえ王侯貴族が珍重するものなのである。それをああも無造作に見ず知らずの、それも他人の奴隷に与えるなど常識では考えられることではなかった。
『ああ、大丈夫ですルキウスさん。
同じ物がいくらでもありますから、気にしないでください。』
それがどのゲームの装備品かはわからない。ただ、リュウイチはとにかくたくさん持っていた。魔法もほぼ同じ効果の名前違いのがたくさんある。おそらく、複数のゲームのキャラがスキルやアイテムと共にこのヴァーチャリアという一つの世界に持ち込まれたのだろう。そしてリュウイチは、というよりこの《
リュウイチはRPGゲームはフツウ程度にしかプレイしていない。有名どころのゲームは一通りプレイした経験があるが、PRGゲームオタクというわけでもないし特定のゲームをやりこんだ廃人プレイヤーというわけでもない。むしろ基本的にはFPSプレイヤーでRPGは御触り程度にしかやってないくらいだ。だから特に詳しいわけじゃないし、アイテムや魔法を見て「これはあのゲームのどのキャラのだ」と判別なんて出来はしない。ただ、特定の系統の一番弱いアイテムは初心者用アイテムだろうという程度は分かる。だから一番地味で一番ツマラナイ装備品を選び、それを「初級装備」と言ってしまったのだったが、それがヴァーチャリアの人間に通じるとは思えず言い直したのだった。
が、たとえ初級装備だろうが基本装備だろうが聖遺物は聖遺物である。
「リュウイチ様にとっては取るに足らぬ物でも我々にとっては貴重な
それをそのようにぞんざいに……どうか御自重ください。」
『急いでいたのですみません。
気を付けます。
ネロ、急いでくれ』
ルキウスの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます