第857話 残留組の役割
統一歴九十九年五月九日、夕 ‐
エイーの解毒魔法によって酒酔い状態から回復したペイトウィンはデファーグ、エイーの二人とともにシュバルツゼーブルグの街を脱した。街中の建物の谷間は既に真っ暗だったが、街を囲む無秩序に密集した難民たちのバラック群を駆け抜けて更にその外側まで突き抜けると開けた農地に出る。樹木も建物も何もない農地は影を作るものが無く、既に弱くなったとはいえ空の夕焼けの明かりが足元を照らしてくれていた。その赤黒く見える柔らかな地面を踏みしめながら駆け続け、農地の更に外側の森の縁近くまで駆けて、そこにポツンと建つアジトへ逃げ込む。そこは街中のアジトと同じく支援者に用意してもらった使われていない納屋だった。
三人は納屋の建物の影へ入り込むと立ち止まり、壁越しに今自分たちが駆けて来た街の方を振り返る。
「ハァ、ハァ、ハァ……
高くはないが街を見下ろせる程度に盛り上がった緩やかな丘の上に立てられた納屋からはシュバルツゼーブルグの街のほぼ全景が見渡せる。
昼間は深緑を映して黒く見える湖
陽は既に西の
バラック群では難民たちが暖をとろうと燃やしている
例外なのは街の中央、ライムント街道に面した建物の壁だ。おそらくルクレティア一行を歓迎するために街道上で
街からアジトまでの間に広がる畑は何もない。木も生えていなければ建物も無く、大麦がようやく芽を出し始めた頃だ。視界を
「……いや、なさそうだ……」
背後から追手の有無を問われたデファーグが注意深く答えると、ペイトウィンとエイーは安堵の溜息を吐いた。
「ふぅぅ~~……どうやら助かったみたいだな。」
「一時はどうなる事かと……」
二人の顔が自然とほころぶ。
「気を抜くのはまだ早いぞペイトウィン、エイー。」
「ああそうだな、ひとまず中へ入ろうぜ?」
「待てよ、そうじゃない。」
納屋へ入ろうとするペイトウィンの肩をデファーグの大きく力強い手が掴んで引き留めた。
「痛いな、何だよ?」
ホッとしたところに冷水を浴びせられたような不快感にペイトウィンは顔を
「何だよじゃないだろ。
スパルタカシアが街に居るんだぞ!?
多分、捕まってしまったメークミーとナイスも一緒だ。」
「だから何だよ!?
まさか俺たちだけで助けに行こうっていうのか?」
反発するペイトウィンの言葉を耳にしたエイーの顔に緊張が走る。
いくらなんでもそれは無理な話だ。だが、
メークミーもナイスも無傷で捕まっているらしい。
でも装備を……
俺も捕まれば、もし捕まってしまえば……
だが、それはエイーの
「いや、そうじゃない……けど……けど何もしないつもりか!?」
「そうさ、何もできないだろ!?
「そうですエッジロード様。
だいたい、当分の間は戦いを避けるってみんなで決めたじゃないですか!?」
ペイトウィンのみならずエイーにまで反対され、デファーグは思わず閉口した。しかし、だからといってこれほどの事態に何もしないでいいわけがない。デファーグは二人から顔を背け、口をムニュムニュ
「お、俺だって、別に……戦おうって……言ってるわけじゃ……」
口ごもるデファーグにペイトウィンは口を尖らせ、ここぞとばかりに強気に出た。
「じゃあどうしろっていうんだよ?
俺たちに仕事はアルトリウシア遠征の準備だぞ!?
盗賊どもを再集結させて、アルトリウシアへの補給体制を構築するんだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます