第1359話 浮気尋問
統一歴九十九年五月十二日・朝 ‐
まいったな、俺がグルギアを気に入ったと誤解したのか?
リュキスカの機嫌が急に悪くなり始めた時はどうしたことかと戸惑ったが、さすがにグルギアのことを気に入ったからリュキスカに引き取らせようとしていると思われているとしたらとんだ誤解だ。
「兄さんアン時、痩せてる方が好きだって言ったよ!?」
『確かに言ったけど、痩せてさえいりゃいいってもんじゃない』
「じゃあ痩せてる女が好きって言うのは嘘だったの!?」
『嘘じゃないよ。
でも限度ってあるだろ?
痩せすぎも太り過ぎも極端なのは嫌なんだ。
あの時は太った女は嫌いだって言うのに、あの女がしつこく迫るから……』
勘弁してくれ……そう言わんばかりにリュウイチが弁解すると、リュキスカは「フーン」と分かったような分からないような声を漏らし、二重に組んでいた足を一段解いた。左足に絡みつかせていた右足首をまるでストレッチでもするようにゆっくりと回す。
「じゃあこの際訊くけど、兄さんの好みってどういうの?」
『好み?』
「そうよ!
まあ、ベルナルデッタが太すぎるってのは分かるわ。
アイツは一番太ってるからね。
でも痩せてりゃいいってもんでもないんでしょ?」
『ああ……そりゃね』
「じゃあどれくらいが良いのよ?」
リュキスカは右足首を再び左下腿に絡みつかせた。
『どれくらいって言われても……』
リュウイチは答えに困った。自分の好みを数値として正確に把握しきれているような男というのはそれほど居ない。だいたい自分の体重を正直に公表する女性なんていないから、どれくらいの太さの女性がどれくらいの体重かなんて知る由も無いのだ。
数字で表現できないとなれば「あの人ぐらい」みたいに誰かを例に挙げて表現するしかないのだが、しかしリュウイチが
『君……ぐらい?』
「アタイ!?」
リュウイチはリュキスカがこの答えに喜ぶかとわずかに期待していたが、リュキスカは眉間にシワを寄せた。二重に組まれた脚が再び一段解かれ、左下腿に絡みつかされていた右足首が再びフラフラと揺れ出す。
あれ、却ってイラついてる!?
『そ、その……ダ、ダンサーって言うだけあって余分な贅肉が無くて、全身にしっかり筋肉ついて締まってるし?
腰とかもシュッと
それでいて胸もお尻もしっかり大き……』
リュキスカが組んでいた足を解き、組んでいた右足を床を踏みつけるようにタンッと勢いよく降ろしてリュウイチは思わず途中で
いや、女性に体形の事言うのは失礼だってわかっちゃいたんだよ……
でも今のは言わなきゃいけない流れだったろ?
見えてる地雷を踏みに行かねばならない理不尽に行き場の無い不満を持て余していると、リュキスカがズイッと前のめりに身を乗り出してきた。
「で、その
『え!? グルギア?』
いつの間にか始まっていたリュキスカの尋問はまだ終わらないらしい。それどころか新たな局面に入ったようだ。
「グルギアってぇの?
痩せてたんでしょ?」
『え、あ、ああ……まぁ、痩せてたよ。
痩せてるって言うよりやつれてるって感じかな?
手足は細かったし、頬もこけてたし?』
「胸とお尻は?」
『えっ!?』
リュウイチも一応現代日本社会で生きて来た男である。男性としての性欲がある以上女体は好きだが、それを女性の前に批評するのがどれだけ非常識かぐらいは弁えていた。答えにくい質問をされて戸惑うリュウイチにリュキスカは誤魔化そうとしているとでも思ったのだろう、語気を強くして問い詰める。
「胸とお尻よ!
痩せてて胸とお尻が大きいのが好きなんでしょ!?」
『いや、見てないよ!
服の上からだと小さそうだったけど……』
「何で見てないのよ!?
奴隷を取引する際、
『いや、ホントに見てないんだよ!
具合が悪そうだったし、服は脱がせなかったんだ』
「裸にしなかったってぇの?
そんなの信じられるわけないじゃない!」
『いや、ホントだって!
マルクスさんは裸にしてみせようとしたけど、エルネスティーネさんも嫌がってたし止めてもらったんだ!』
必死で弁明するリュウイチを
「ロムルスさん、アンタその場にいたんだよね?
どうなんだい!?」
「
リュキスカの剣幕に負けたのかロムルスはいつもの砕けた調子ではなく、古参兵にドヤされる新兵のように軍人口調で答えた。
「嘘ついたら承知しないよ!?」
「嘘ではありません!!」
「後で
嘘はすぐにバレるんだからね!!」
「どうぞご自由に!
しかし
「ふーん……」
ロムルスの答えに満足したのか、リュキスカはゆっくりと背もたれに体重を預け、再び足を組んだ。組んで浮いた右足をフラフラと揺らし始める。
何でこんなことになってんの?
世の中の男は浮気を疑われるたびにこんな思いをしてんの?
リュキスカの矛先がロムルスに向いたことで緊張がわずかに解けたリュウイチは自分の今現在の境遇に疑問を抱き始めていた。
そもそも何で浮気を疑われなきゃいけないんだ?
俺とリュキスカ、別に夫婦ってわけでも恋人ってわけでもないよな?
『あの……リュキスカさん?』
「ん?」
『えっと……ひょっとして
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