第1248話 取り残されたもう一人
統一歴九十九年五月十一日、晩 ‐
ふぅぅぅぅ~~~~~~っ……
何かを
何で俺がこんな風に一人で放置されなきゃいけないんだ……
カエソー・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵公子が中座した結果、一人で食堂に取り残されたペイトウィン・ホエールキング二世はその身分にそぐわない理不尽な扱いに
「もう少しおいしそうに召し上がってはいかがですかな、ペイトウィン・ホエールキング様?」
食卓から少し離れたところに立ち、ペイトウィンを見下ろす偉丈夫が呆れたように文句をつける。言わずと知れたペイトウィンの見張り役グルグリウスだ。人間のような
「おいしいさ!
おいしそうに食べてるように見えないか?」
肉の塊を飲み込んだペイトウィンは毅然とした様子を気取って答える。だが、その声色にはアリアリと不満の色に染まっていた。
「とてもおいしそうには見えませんな。
むしろ、不味いものを我慢して食べてやってるんだとでも言いたそうです」
太刀打ちできない相手が
「まあ俺の舌を満足させるには少々粗末すぎるのは事実だからな。
だが別に不味いと思ってるわけではないぞ、本当だ。
何故ならコレは、少なくともお前が昨日俺に食わせたものにくらべれば格段にマシなんだからな」
そう言うと皿にスプーンを突っ込んで羊肉の塊を掬うと、顔の前まで持ち上げる。
「うん、実際かなり美味いぞ。
こんな辺境ではどんなゲテモノを食わされるか分かったもんじゃないと心配したが、思っていたよりずっとマシだ。
お前が昨日持ってきたモノに比べれば味の芸術品と言って良いだろうな」
そして肉を頬張り、
「それはようございました」
グルグリウスはペイトウィンの嫌味など気にする様子も無く答える。
「だとすればわざわざ
それを聞いたペイトウィンは両拳でドンッとテーブルに叩き、グルグリウスを
「お前、昨日のアレはやっぱりワザとだったんだな!
何の嫌がらせだ!?」
貴族は
しかしグルグリウスがそれで
「嫌がらせだなどととんでもない!」
「白々しいぞ!
嫌がらせじゃなきゃ何だって言うんだ!?」
とぼけるグルグリウスに対し、ペイトウィンは指を突き付けて追及の構えを崩さない。
「アレは
「それがどうした!?」
「ですが庶民の中ではあれはまだ贅沢な方なのです。
「だからそれがどうした!?
俺は貴族だぞ!
それもハーフエルフ、貴族の中でも最上位の聖貴族だ!
その俺にあんなものを出して、どういうつもりだ!?」
「経験ですよ」
「経験だと!?
なんのことだ?」
「人間は一つ経験を積むと一つ賢くなれるのです。
貴方様もあれを召し上がられたことで、貴族が庶民に比べてどれだけ贅沢をしているかよくお分かりになられたでしょう?」
「余計な御世話だ!」
ペイトウィンは大きな声を出しながらテーブルを両手で叩き、立ち上がった。
「そんなこと俺がいつ頼んだ!?
貴族の食事が贅沢なことぐらい知ってるさ!!
それがどうした、当たり前の事だろ!?
貴族は贅沢をしなきゃいけないんだぞ!!」
人々の理想を体現するのは貴族に課せられた使命なのである。人々が贅沢をしたいと望み、御馳走を夢見るならば、贅沢をし、御馳走を食べて人々の理想を体現してみせなければならない。そして、人間は贅沢を望むものなのだ。常に今よりも豊かな生活を夢見るものなのだ。だから貴族は贅沢をしなければならないのだ。
ペイトウィンに限らず、
「言い方が悪かったかもしれませんな」
激昂するペイトウィンにグルグリウスは困ったように笑って見せた。
「聖貴族はいづれ世界を、世の人々を発展へと導く存在……
ならば、これから導いていく人々の今の実態を知っておくのは必要なことでしょう」
「だから余計な御世話だと言っている!」
ペイトウィンはドスンと椅子に腰を下ろし、腕組みしてふんぞり返った。
「お前は俺がムセイオンの外のことなど何にも知らないと思ってるようだが、俺たちは今回の旅で色々見聞を広めたんだ。
NPCどもの事だってファドが色々教えてくれたぞ」
「ファド?」
「ああ、『
ケントルムの貧民街で生まれ育ったから俺たちの知らないことを色々知ってるんだ。
お前なんかよりずっと役に立ってくれたし、ずっとたくさん教えてくれたぞ?
だからお前のものの役にも立たない御説教なんか聞く必要なんかないんだ。
くだらないお為ごかしで意地悪するのはやめるんだな」
最後にヘンッと笑って見せる。相手のすることを無駄だと断定し、役立たずと存在意義から否定し、自尊心を傷つける……それはペイトウィンが相手より優位に立つための
「ですが全く役に立たなかったわけではありませんな」
「何だと?」
「庶民の食事を知ったおかげでこの粗末な御馳走を美味しいと思えたでしょう?
現に貴方様は先ほど『美味い美味い』とおっしゃった。
いやぁ~お役に立てて良かった良かった」
嬉しそうに笑うグルグリウスの顔はペイトウィンには嘲っているようにも見え、ペイトウィンは思わずギリッと歯を
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