第150話 性欲問題
統一歴九十九年四月十六日、午前 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
「
アルトリウスはクィントゥスの報告に怪訝な表情を見せた。
今日はリュウイチに対し、昨日の射撃実験の御礼と結果の報告をしに、そして明日サウマンディアへ帰るカエソーとアントニウスの挨拶に付き添うために、リュウイチの滞在する
「はい、
いつ暴発しても・・・」
アルトリウスは文字通り頭を抱えてため息をついた。
言われてみればその通りだ。
アルビオンニウム派遣隊だった兵士らは厳重な
その一環で、兵士らは要塞からの外出が制限されており、
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「んん~・・・次から次へと・・・
クソッ、このままどうにかならんか?」
「このままではどうにもなりません。
どうにかするしかありません。」
「どうにかできるのか?」
「酒か女をあてがうしかありますまい。」
「だが、外出を許可して機密を守れると思うか?」
「無理でしょう。」
酒が入って女を抱いて・・・その間、全員が理性を保って機密を守り続けることを期待するのは難しい。
彼らは人一倍の体力を誇る健康な軍団兵であり、一週間以上も禁欲生活を送ってきたのだ。外出を解禁すれば羽目を外す兵士は必ず出てくる。
酒に
さすがに降臨者リュウイチの事をそのままバラしてしまう程のアホはいないと思うが、断片的にでもおかしな情報が洩れて行けばやがて秘密が暴かれてしまう危険性が高くなる。
レーマ本国から降臨者リュウイチの扱いについて方針が伝達されるまでの三か月、なんとしてもリュウイチの存在と降臨の事実は秘匿しておきたい。
「なら無理だ。外出は許可できないぞ。」
「しかし、このままではアイツら要塞内に収容している避難民に手を出しかねません。」
我が家から焼け出されて無防備な状態の婦女子が性犯罪に巻き込まれるのを防止するため、
「どうしろというんだ?」
「もう、いっそ女の方を連れて来るしか・・・」
言いたいことは分かる。
娼婦たちを適当に要塞に連れて来て、軍団の目の届くところで営業してもらうのだ。
少なくとも最低限の秘匿性は維持できるだろう。しかし・・・
「
「・・・・・思いません。」
軍隊が機能するために最も大事な要素は統率である。兵士の数でも強さでも兵器の性能でもない。兵士の数が多かろうと強い兵士を揃えようと強力な武器を備えようとも、統率のとれていない集団は
そして、その統率を強固に作り上げるのは規律である。
要塞や陣営に女を連れこんで酒色を供するなど、規律を破壊する行為でしかないのだ。まともな将校なら許可するはずがない。
「だろう?」
「ですが、このままでは士気が崩壊しかねません。
ダメ元でも
クィントゥスは食い下がった。
アルトリウスにしたところでクィントゥスが言いたいことは分かってる。決して理解しないわけでは無いのだ。
元気で体力のあり余っている若い男がかつて経験した事の無い緊張を強制されている。外出を禁じられ、酒は禁じられこそしていないものの要塞内では酔えるものでもない。そして女には手が出せない。
だが、同じ要塞内に収容されている避難民のほとんどが女だ。そこにいる女たちのなかには結構な割合で娼婦も混ざっているのである。それが目と鼻の先をウロチョロし、同じ要塞内にある
このような状況は下手な拷問よりも効くだろう。
いつ間違いが起きても不思議ではない。むしろ、今まで起きていない方が奇跡的なくらいなのだ。
「わかった。だが、
私の方では規律と機密を最大限に保持するよう対策を取った上でッ!という但し書き付きで承認する。
いいか、要塞内の規律と機密を最大限に保持することが条件だぞ!?」
要するに丸投げだ。
しかし、ただ単にダメだと言われるよりはマシである。
クィントゥスは敬礼して「承知しました」と答えた。
「で、リュウイチ様の方はどうなんだ?」
一つの話題が終わったところで、ふと次なる疑問が思い浮かぶ。
「リュウイチ様ですか?」
「そうだ、降臨者様だって男だろう?」
軍団兵だってもう限界だと言ってるのだ。
なるべく不満が溜まらないように最大限の注意を払ってはいるが、見知らぬ土地で見知らぬ人物に囲まれて行動を著しく制限されているリュウイチは軍団兵なんかよりも取り巻く環境は悪いと言っていいだろう。
「ああ・・・!」
「『ああ』じゃない。
ルクレティアは?昨日からはヴァナディーズ女史も増えたんだ。
どちらかに御手付きの兆候はないのか?」
「・・・いや、無いようです。」
「・・・リュウイチ様だって
ホントに何も無いのか?
「すみません。そういう兆候があれば気付けると思うんですが・・・」
クィントゥスも男だが一応妻帯者だ。家庭は円満だと聞いている。
女ほど鋭くはないだろうが他人の機微に疎い方では無いはずだ。まして、アルトリウスの知る限りルクレティアは隠し事が得意な方ではない。本人も子供の頃から巫女になることに憧れていたのだ。
御手付きがあればさすがに言いふらしはしないにしても、何がしか態度に出る筈。そのルクレティアの変化にクィントゥスが気付けないとすると、本当に御手付きが無いのだろう。
「ルクレティアじゃ不満なのか?
それとも何か特殊な御趣味でもお持ちなのか?」
「いや、さすがにそれは・・・」
「しかし、ルクレティアに手が着かないとすると何か考えねばならなくなる。」
「代わりの御婦人・・・ですか?」
決して怒らせてはいけない相手に何も面倒事を起こさないようにする最良の方法は酒色におぼれさせる事である。
酒、御馳走、女をあてがい、贅沢と快楽で
しかし、リュウイチに酒は効かない。いくら飲ませても酔わないのだ。おそらく麻薬の類も効かないであろう。
御馳走も限度がある。そもそも贅沢させようにも現状ではアルビオンニア侯爵家もアルトリウシア子爵家も財政がひっ迫しているのだ。それでも可能な限り食材を集めて振る舞っているが、生憎とリュウイチは節制を重んじるらしく過度な贅沢を
あと残された手段は女だけだ。
しかし相手は降臨者である。
高貴な人物に
つまり、降臨者の世話は原則として
その点、ルクレティアは都合が良かった。
彼女は由緒正しい血筋の聖貴族であり上級貴族としても最上級の家柄だ。そして今現在十五歳、今年で十六になる生娘であり、それより何より彼女自身がその身をささげる事を望んでいる。
ルックスだって決して悪くはない。
種族の違うアルトリウスにとっては好みではないが、ヒトの娘の中ではきっとモテる方だろうという程度の事は分かるし、実際アルトリウシアではアイドル的な存在でもある。
そのルクレティアがダメだとなると、彼女には悪いが別の女性を探さねばならない。
「そうだ。だが下手な女をあてがうわけにもいかん。
それなのにアルトリウシアに上級貴族の妙齢のヒトの女性は?」
「・・・すみません。
「・・・・・」
エルネスティーネは確かに上級貴族で美人ではあるし未亡人だが、属州アルビオンニアの
しかし、ヒト種の上級貴族で妙齢の女性はルクレティアかエルネスティーネしかいないのは事実だった。
どのみち、他所から上級貴族の女性を連れて来るか、地元の下級貴族から探すしかないわけだが、それでもせめてリュウイチの好みぐらいは事前に調べておかねばならないだろう。
「
リュウイチ様の女の好みを、できるだけ早急に調べるんだ。」
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