第221話 縋れぬ光明
統一歴九十九年四月十八日、午後 - ティトゥス要塞司令部/アルトリウシア
この世界ヴァーチャリアはメルクリウスを名乗る謎の人物による召喚術で《レアル》と呼ばれる別の世界から召喚された降臨者によって、文明・文化・科学知識などを
降臨者は基本的にヒト種の人間であるが、降臨してくるにあたってメルクリウスの秘術によって高い魔力と
そうなると、降臨者自身が寿命等で世を去れば、せっかく
降臨者の血を引き
そんな世界で、先祖返りのように降臨者本人並みの強い魔力と
当然、その血を引く子を一人でも多く残してもらおうと世界全体が画策することとなる。
神聖な降臨者、高貴な血筋と持て
有力者たちは
幸運にも降臨者に手を出してもらえたなら降臨者の血を引く子を産む可能性が出てくる。ゆえに、
さらに実際に子を産めば…しかもそれが強い魔力を持った子ならばそれは世界的な快挙である。その子を無事に育て上げれば世界や国家にとって計り知れない恩恵をもたらす存在になるのだ。当然、偉大な子を産んだ
蛇足だが「
聖女たちは
さて、現在の状況では降臨者リュウイチによって手を付けられたリュキスカは
娼婦である彼女は
「それは…残念なことね。」
エルネスティーネは仕方ないと諦めたかのように眉を持ち上げ、ため息交じりに言った。
「まあ、それはそれでいいだろう。
しかし
「ええ、そりゃあ、アタイだってそれはシッカリやらせてもらうよ。」
やはり少し残念そうに言うルキウスにリュキスカが答えると、エルネスティーネはリュキスカに歩み寄ってしゃがみこみ、リュキスカの抱く赤ん坊を覗き込んだ。
「愛されているのね、この子は。男の子だったかしら?」
「はい!フェリキシムスです!」
「そう、
あら、でもカロリーネと同じ十か月にしては少し小さくないかしら?」
エルネスティーネは子育ての多くを侍女たちに任せているとはいえ五児の母である。まして、末っ子がフェリキシムスと同じ生後十か月なわけだから、フェリキシムスが自分の子よりも小さいことに気がついた。
「ああ…この子…アタイもだったんだけど、
それで普通の子より成長が遅いみたいで…」
「まあ、労咳!?」
エルネスティーネは驚き、しゃがんだままだが思わず身を引いてリュキスカの顔を見た。
労咳といえば死病である。しかも人に感染する。驚くのも無理はなかった。
リュキスカはエルネスティーネの反応に慌てて大丈夫アピールを始めた。
「ええ、でも!でもリュウイチ様に治していただいたんだよ!
だからもう咳ひとつしないし、急に、今までがウソみたいに元気になって…
オッパイだってすごく飲むようになったんだ!?」
「リュウイチ様が?」
「はい!魔法であっという間に…でも、死にかけだったから魔力が戻んなくって、そんで最後は何だっけ…何だかいう、何にでも効くっていう薬をいただいて。
それでアタイとこの子の病気をいっぺんに!」
「そうだったのですか?」
エルネスティーネは斜め後ろに立っているルクレティアに問いかけると、ルクレティアは少しモジモジしながらためらいがちに答えた。
「はい、恐れ多くもエリクサーを用いられました。」
「「エリクサー!!」」
ルキウスとエルネスティーネは思わず絶句し、固まってしまう。
「な、何だか知んないけど、すごいお薬だったねぇ。
何か飲んだ瞬間に身体全体がポォって温まった感じがしてさ。何か胸にあったイガイガした感じとか全部きれいに消えちまったんだよ。」
ニコニコして話すリュキスカとは対照的に、赤ん坊へ視線を戻したエルネスティーネの表情はどこか物悲し気だった。
「そう、よかったわね。この子はその名の通り、幸運に恵まれたのね。」
リュキスカはエルネスティーネの言葉でカールのことを思い出した。侯爵家の公子カールが病弱なことはアルビオンニアの人間なら知らぬ者のない常識である。
「そうだ!エルネスティーネ様!!
カール様のこと、リュウイチ様にお願いすりゃいいんじゃないかねぇ!?」
リュキスカはパッと明るい顔でエルネスティーネに提案する。それは実に良いアイディアに思えた。リュキスカ母子の死病を一瞬で治したリュウイチなら、カールの身体だってきっと治せるに違いない。
しかしエルネスティーネは悲しそうにニッコリとほほ笑んだ。
「いえ、それはできないわ。」
「ええ!?どうして?
大丈夫だよ!
リュウイチ様はアタイみたいな
カール様だって絶対治してくれるよ!!」
エルネスティーネは悲し気な笑顔を背けながら立ち上がる。
「ええ、それはわかっています。
リュウイチ様は御願すればきっと助けてくださるでしょう。」
リュキスカは思わず立ち上がってエルネスティーネに追いすがる。
「じゃあ、じゃあさ、助けてもらえばいいじゃないさ!
何なら、アタイが頼んであげるよ!!」
「ありがとうございます
でも、
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