第944話 蒸し料理
スノードロップや大男たちが野菜の美味しさを理解してくれたので、もっと人を集めてもらい、調理方法を教える会を開く事にした。
これに伴い、蒸気が出て来る石の壁の煙突を増やし、木で蓋を作って普段は蒸気が出ないようにしている。
更にネーヴやスノードロップは、はスノーフェアリーという女性が熱さに弱い種族だと聞いたので、煙突に近寄らなくても、紐を引っ張る事でザルを動かせるようにもした。
「……という訳で、こんな感じで調理すると良いのだが、わかっただろうか」
集まったスノーフェアリーの女性たちに、煙突の使い方と、作物を蒸しあげる事で美味しくなる事、それから味付けの話をしておいた。
といっても、味付けについては俺もよく分からないから、リディアたちから話を聞いているユーリに説明をしてもらったが。
「蒸すだけで、こんなに美味しくなるなんて」
「けど、蒸し終わった後は熱すぎるのよね。氷魔法で冷ませば食べられるけど」
「そうよね。わざわざ料理してから食べるのは面倒よね。このトマトやキュウリはそのまま食べても美味しいし、旦那たちは魚をそのまま食べるし」
ふむ。味よりも調理の手間が勝ってしまうのか。
ただ加熱せず、そのまま食べても美味しい作物があるのも事実なので、困ったものだ。
何か熱を加える事で、劇的に美味しくなる食べ物があれば良いのだが。
「はーい! みんなー! とっておきが焼き上がったよー!」
どうしたものかと悩んでいると、突然ユーリが大きな声で皆を集める。
どうやら、端にある煙突で何か作っていたらしいが……なんだろうか。
俺も聞いていない料理が何かと思いながら、見ていると、丸い何か……が出てきた。
「これは、蒸しパンっていうんだよー! こっちはプレーンで、こっちはスイートポテト。それからニンジンにカボチャ……いろいろな野菜を混ぜて作ったから、味見してみてー!」
「わぁっ! 甘くて美味しい! この甘さは……ダメっ! クセになっちゃう!」
「ポテトが入っているパン……何て美味しいの!? あぁっ! こっちのカボチャも私好みかもっ!」
おぉ、流石だ! 女性が大勢いるから、甘味で攻めたのか!
ユーリかリディアかエリーか、誰の案かは後で聞くとして、これは効いているっ!
「あ、あのっ! この蒸しパンって、熱を加えなかったらどうなるの?」
「えっとねー。この生地……小麦粉は熱を加えないと、食べられないのー! だから、あそこで蒸して欲しいんだけど、コネコネして、型に入れて、煙突に置いて待つだけだから、簡単だよー!」
「そうなんだ。これは作り方を教えて欲しいかな」
「うんっ! 任せてー!」
ユーリが女性たちと一緒に蒸しパンを作り始めた。
生地をこねるのは、スノーフェアリーの女の子が楽しんでやっているし、これならいけそうだ!
何とか調理方法が広まってくれそうだと思ったところで、再びユーリが皆を集める。
「えっと、パパの作物じゃないんだけどー、せっかく蒸気で料理が作れるから、リディア……えっと、パパのお友達がこういうのを教えてくれたのー!」
そう言って、ユーリが取り出したのは、小さな容器に入った黄色い何か……だった。
これは一体何だろうかと思っていると、ネーヴに頼んで、氷魔法で冷やしてもらっている。
「……わざわざ温めて、冷やすの?」
「そうそう。それが大事なんだってー」
「……ふーん。何だろ」
スノーフェアリーたちだけでなく、レヴィアも興味津々な様子でユーリに話を聞いている。
少しして、ネーヴが冷やし終えたと言って、容器を持ってきてくれたところで、ようやくこれが何かわかった。
前にリディアが作ってくれた事があって、とても美味しかったデザートだな。
正体がわかったので、スプーンと一緒にスノーフェアリーたちに配っていく。
レヴィアやスノードロップ、ネーヴにも渡して、皆が一口掬って食べると、
「あ、甘ーい! プルプルして、不思議な食感!」
「底に黒いソースが……少し苦みがあって、でも甘くて、美味しいっ!」
「これは……これは何なのっ!? どうやって作るのっ!?」
いつの間にかユーリが作っていたデザート……プリンに女性陣がハマり、ユーリが質問攻めにあっていた。
冷やす工程は、スノーフェアリーたちは皆得意だろうし、プリンと一緒に蒸し料理を作ってくれると良いんだけどな。
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