挿話57 迷走するシノビのツバキ

「あの男からサクラ姉とメイリン様を取り返す為にも、もっと腕を磨かなければ」


 捕らえられていた家を出ると、屋根に跳び乗り、先ずは周辺の地形を確認する。

 ……高い壁に囲まれた村で、南に畑が広がり、北に森が見えた。

 壁の外はどうなっているのかと、屋根から壁の上に飛び移り、


「……な、なんなのっ!? どうなっているのよっ!?」


 何も無い。

 ただただ何も無い地面だけが果てしなく続いている。

 唯一あるのがこの壁で、東の方に延々と伸びていた。

 ここがどこかは分からないけど、この壁の外に出たらマズい事だけは分かる。

 壁の外は見なかった事にして、再び内側へ。


「東に何かあるのかもしれないけど……と、とりあえず身を隠すなら、あの森かな」


 シノビである私は、野営だって何度もしてきた。

 食べられる野草だってわかるし、森に住む動物を狩って調理も出来る。

 森の中に川か湖くらいあるだろうし、そこで修行だ。

 サクラ姉、メイリン様……待っていて下さい。必ず私が助け出してみせます!

 そう心に誓って森へ移動したのだが、


「無いっ! 何故っ! それなりの広さがある森なのに、どうして川も湖もないのっ!?」


 水が一向に見つからない。

 それどころか、動物も居ないし、低い所に枝のない、真っ直ぐで大きな樹しか生えていなくて、食べられそうな植物もない。

 森の端まで行くと、また高い壁に遮られていて、森全体が囲まれているようだ。

 流石にこんな場所では野営も出来ず、トボトボと森の中を歩いていると、大きな音が響き渡る。

 何事かと思って音のする場所へ向かうと、


「ゴーレムですって!? あの男が魔法で操っているの!?」


 巨大なゴーレムが樹を切り倒し、どこかへ運んで行く。


「あの大きな樹をあっと言う間に切り倒す謎の武器と、軽々と運ぶ力……マズい。あのゴーレムは相当強い。だけど、あのゴーレムを倒せなければ、あの妖術使いの男を倒せないという事よね」


 一先ず、森の中を隅々まで歩き通し……お腹が空いてきた。

 既に陽が落ちて来たが、途中で大きなゴーレムが戻って来て、再び樹を切って行ったくらいで、やはり動物の一匹も現れない。


「うぅ……喉が渇いた。お腹空いた。汗を流したい」


 おそらく眠らされた時だろう。

 隠し持っていた武器や、非常食などが全て無くなっている。

 もちろん、一日くらい飲まず食わずでも過ごせるのだが、せめて水は確保したい。


「そういえば森へ入る前に、小屋の傍に風呂みたいな物があるのを見つけたわね。……夜なら、見つからないか」


 夜目も効く私は、森から南へ戻り、目的の場へ……人が大勢居る?

 この地に住む者の共有の風呂だったのね……って、ちょっと! ど、どうなっているのっ!?

 物陰から隠れて様子を伺っていると、お風呂の周りで、今日会ったサクラ姉の子供くらいの年齢の少年少女たちが、その……身体を重ね合っていた。

 沢山居る少年少女たちは、さほど距離が離れて居らず、少し横を見れば、その行為の様子が互いに見えてしまうというのに、全く気にした様子がない。

 それどころか、少年の一人がビクッと身体を震わせ、動かなくなったかと思うと、暫くして起き上がり……別の少女と身体を重ね始めたっ!


「な、何なの!? 一体、この地の住人はどうなっているのっ!?」


 よく見れば、サクラ姉の子供も居て……凄い! あんな幼い少年に房中術を駆使して……し、死んじゃわない?

 というか、そもそもあんな少年が出来るの!? ……愚問だったわね。物凄くしてるもん。

 うわぁ……あんなに沢山出るものなの!?

 というか、何度も相手を変えていって……どれだけするのよっ!

 目の前で繰り広げられる、信じられないような光景に見入ってしまったのだろう。

 突然、


「ねぇ、お姉さん……混ざりたいの?」

「ひゃぁぁぁっ!」


 少年の一人が背後に居て、声を掛けてきた。

 しかも、全裸……うゎゎゎ。ほ、本物を初めて間近で見ちゃった!

 子供のだから、結構可愛……くなんてないのね。

 師匠から聞いていた、大人サイズに思えるんだけど。

 というか、これって大ピンチじゃない!?

 お、襲われるっ!


「ま、混ざらない……混ざらないわよっ!」

「そっか。じゃあ気が変わったら、僕たちの誰かに声を掛けてね」

「えっ? あ、あれ? 行っちゃった」


 てっきり、あの少年たちに囲まれて、服を破られ、揉みくちゃにされた私は初めてを奪われ……って、展開かと思ったんだけど。

 流石に房中術の修行をしてきているとは言っても、未経験だし、そもそも苦手だし。

 良かった……うん。良かった。


 とりあえず、この子供たちが変な事をしないか見張っておかないと。

 そう、あくまで大人として、様子を見守るのよっ!

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