第360話 余所者に厳しい小さな村

 壁の下のトンネルを出てから、南へ進んだ所で、小さな村を見つけた。

 一先ず、森から出ずに遠目に様子を伺って居るのだが、この村は物凄く静かというか、そもそも人の出入りが無いようだ。

 エリラドとシーナ国の王都ベイラドの中間地点にある村は、小さいけれど休憩所として人の出入りが激しかったんだけどな。


「うーん。人の多い街だと、紛れ込むのも簡単そうなんだけど、ここは難しそうだな。余所者に対して厳しそうだし」

「まずはカスミちゃんが様子を見てこようか? シノビだから、幾らでも方法はあるわよ?」

「そうなのか? すまないが頼む」

「任せてっ!」


 そう言うと、一瞬でカスミの姿が農民のような格好になり、


「じゃあ、ちょっと行ってくるねー!」


 正面から村へと向かって行った。


「……ナズナも、あんな事が一瞬で出来るのか?」

「い、いえ。流石にあの早さでは無理です。サクラお姉ちゃんならもしかしたら出来るかもしれませんが……」

「サクラは脱ぐだけなら一瞬で……げふんげふん。いや、何でもない。忘れてくれ」


 しかし、カスミの変装は凄かったが、マミから貰った変化スキルで行ってみるのはアリかもしれないな。

 俺がこのまま行くと警戒されるかもしれないが、子供の姿なら流石に気を緩めてくれるのではないかと思う。

 ……ただ一人で行ってしまうと、どうして子供が一人で!? となりそうなので、それをするならナズナかサンゴと行動を共にしなければならないが。


「おにーさん。ただいまー!」

「カスミ!? めちゃくちゃ早いな」

「まーねー。ここは、本当に小さな村だったし。えっとね、結論から言うと……何か後ろめたい物を隠している村ね。それが何かまでは分からないけど」

「そうなのか? よく、この短時間でそんな事がわかったな」

「村の人に話し掛けた時の反応で、わかっちゃうのよ。皆が皆、似たような反応をするし。とりあえず、村ぐるみで何かを隠しているか、もしくはそうせざるを得ない何かがあるのか……それによって、行動は変わるかなー」


 カスミの言う通り、悪人の集まりであれば容赦はしないが、皆が何かを庇っているのであれば、そういう訳にもいかないな。


「一応聞いておくが、今の話からすると、余所者が村を訪れる事は……良くないよな?」

「そうねー。流石に村人が数える程っていう訳ではないから、さっきのカスミちゃんみたいに村人っぽい格好で行けば大丈夫だけど、そのままだと目立ち過ぎるかしらねー」


 なるほど。さて、どうしたものか。

 理想は、この村の空き家でも借りて拠点にして、ヴァレーリエたちが来られるようにしたい所だが、今のままではそれも難しそうだな。

 そんな事を考えていると、再びカスミが口を開く。


「という訳で、カスミちゃんの変装ターイム! 今から、カスミちゃんのシノビ変装グッズでー、全員村人風になってもらいまーす!」

「カスミお母さん。サンゴは自分で出来るから大丈夫ー!」

「お母さん。時間をかければ、私だって変装くらい出来るもん!」


 ん? よく考えたら、隠密行動をする為、俺以外全員シノビだったな。

 だったら、俺も変化スキルを使えば、完璧じゃないか?


「おにーさん。じゃあ、カスミちゃんが変装させてあげるからー、脱ぎ脱ぎしましょうねー」

「≪変化≫……ふっ。これなら変装しなくても良いだろ?」

「え? 全然ダメよー? 子供の姿は良いんだけどー、全然村人っぽくないものー。じゃあ改めて……ぼくー。お服をぬぎぬぎしまちゅよー!」

「いや、カスミ!? 服くらい自分で脱ぐ……って、そんなところを触るなっ! 今はこんな事をしている場合じゃないだろ。見つかるぞっ!?」

「大丈夫、大丈夫。村の人たちは、こっち側にはまず来ないから。ここはお茶畑のみで生計を立てている村みたいで、畑は全部村の西側らしいから」


 よくそこまで調査出来たなと、改めてカスミの凄さに感心するのだが……いや、本当に止めないと、大変な事になるっ!

 ……変装を終えたサンゴも混ざろうとするなっ!


「うぅ……わ、私もシノビとして、アレックス様へのご奉仕に混ざらないといけないのに! うぅ、胸が邪魔で着替えが……」

「あー、確かに変装する時に大きな胸は困るわよねー。そういう意味では、サクラちゃんやツバキちゃんは、変装向きかもー! ……言ったら、流石に怒られそうだけどー」

「カスミお母さん。お父さんのここも、変装に困るかも! 子供の姿なのに、ここだけこんなに大きいんだもん! すごーい!」


 いや、サンゴは何を……普通に、普通に変装させてくれっ!

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