第361話 ナズナお姉ちゃんとアレックス

 くっ……村人風に変装するだけなのに、全然関係ないところを弄られてしまった。

 ただ、流石にふざけている状況ではないので、ナズナが着替え終わった所で解放されたが。


「じゃあ、カスミちゃんとサンゴちゃんはー、それぞれこの村の裏を探りましょうかー。で、ナズナちゃんは、アレックスちゃんの事をお願いねー」

「わ、私ですか!? お、お母さんの方が適任だと思うのですが」

「そうかもしれないけど、アレックス様と二人っきりになれるなんて、普通ならまず無理よ! このビッグチャンスをしっかり活かすのよ!」


 えーっとカスミは、あまりナズナに変なプレッシャーをかけない方が良いのではないだろうか。

 というか、村で拠点を作る事が第一だからな?

 そう思っている内に、村人風に変装したカスミとサンゴが先に村へ行ったので、俺も村娘風に変装したナズナと共に歩き出す。

 ……鏡などが無いので自分の姿が見えていないが、俺も今のナズナのような雰囲気の少年になっているのだろう。


「ナズナ。村の中では姉弟を装う感じで良いんだよな?」

「は、はい。その通りです。アレックス様」

「いや、姉弟で様付けとか敬語はおかしいと思うのだが」

「あ。そう……ですね。えっと、では、あ、アレックス……とお呼びします。いえ……よ、呼ぶね」

「俺は、ナズナお姉ちゃん……って感じで良いのか?」

「……は、はい! な、なんでしょう。私、姉が二人で、末っ子だったので……お姉ちゃんと呼ばれると、何だか照れくさいというか、嬉しくなってしまいますね」


 そう言って、ナズナが嬉しそうに俺の手を取り、歩いて行く。

 年齢的には俺の方が上だが、この姿でそう呼ぶ事で喜んでくれるのなら、幾らでも呼んであげようか。

 そのまま手を繋いで歩いて行くと、村に近付いて来たのだが……カスミたちは、このまま入って行ったのだろか。

 北側――壁側に村人が来る事が無いと言っていたし、俺たちが何も無い北側から来るのは怪しいよな?


「ナズナ。少しルートを変えよう」

「アレックス。ナズナお姉ちゃんでしょー?」

「……ナズナお姉ちゃん。村の北側からではなく、別の場所から村へ入った方が良いと思うのだが」

「そうなのかなー? でも、アレックスがそう言うなら、そうしよっか。……あ、でも、既に村の人に見つかっちゃった」


 え!? 俺には分からないが、既に北側から俺たちが向かっている事が見られたって事なのか?

 だとしたら、今からルートを変えるのは怪しい。

 北側から入るルートで行くのと、何か言い訳を考えなければ。


「あれ? アレックスが道を変えようって言ったんじゃなかったっけー?」

「いや、既に見つかっているのだろう? だったら、今から変えると怪しいだろ? 仕方がないから北側から行こう」

「わかった! じゃあ、後はナズナお姉ちゃんに任せてねっ!」


 ナズナが自信あり気に進んで行くので、そのまま一緒に村の中へ。

 殆ど使われない北側から入って来たからか、物凄く視線を感じる気がする。

 あまり目立ちたくはないのだが、突然ナズナが足を止め、


「よ、良かったね。ようやく、村に着いたよ」


 謎の芝居を始めてしまった。

 どうしたものかと思っていると、


「……アレックスも合わせて……」


 と小声で言ってくる。

 いや、村へ入る前に言っておいてくれよ。仕方ないな。


「そ、そうだね。ナズナお姉ちゃん」

「えぇ。さぁお家に帰りましょう」


 一先ず、ナズナの言う通り合わせ……なるほど。元々、この村の出身だという事にしたのか。

 おそらくナズナは、俺たちを見ていたという者に対して言っているのだろうが……北側から入った事に対する理由は大丈夫だろうか。

 若干不安に思っていると、


「そこのお嬢ちゃんと、弟……かしら。少しお待ちなさいな」


 北側から来たからか、少し目つきが鋭い女性から声が掛けられた。


「あの、何でしょうか?」

「貴方たち……どうして、そっちから来たの? その先には魔族領からの魔物を防ぐための壁しかないはずだけど」


 さて、ナズナはどう答えるのかと様子を伺っていると、


「え? あ、アレックス……どうしよう」


 何にも用意していなかったーっ!

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