第362話 何でも喋ってくれる女性

 村の女性に問い詰められ、どうしようかと思ったのだが、一先ず正直に言ってみる事にした。


「すまない。実は道に迷ってしまって」

「いや、いくら道に迷っても、北側からは……そ、そう。道に迷っちゃったのね? 仕方ないわねぇ。お姉さんが教えてあげる。さぁ、こっちへ来て」

「え? あ、アレックス様……アレックスちゃん! 何処へ行くのっ!?」


 いや、何処へ連れて行かれるのか、俺が知りたいのだが。

 しかし、最初は鋭い目を向けられていたのに、今は温かい……というか、熱っぽい目を向けられている気がするのだが、一体何が起こったのだろう。

 とりあえず、親切そうにしてくれているので、ダメ元で聞いてみようか。


「あの、ここは何という村なんだ?」

「ここは、ウラヤンカダの村よ。茶葉が有名だから……そうだ。アレックスちゃんって呼ばれていたよね? 今からお姉さんのお家で、お茶しようよ。せっかくだし、飲んで行ってよー」

「アレックスちゃん! ダメーっ! 何だかこの人、目が怪しいよーっ! トロンって蕩けた感じで、アレックスちゃんをエッチな目で見てるっ! さっきのモニカさんと同じ目をしてるーっ!」


 モニカと同じ目……は、ヤバいな。

 一旦落ち着こう。とりあえず、家の中は危険な気がするが、とはいえあまり目立ちたくもない。

 だが、せっかく話が聞けそうなので、得られる情報は得ておきたいという思いもある。


「あの、何処か落ち着いて話が出来る場所は……」

「私の家が良いと思うな」

「あ、アレックスちゃん! もう、ここで良いと思うよっ!」


 うん。何故かやたらと家に連れて行こうとされているので、ナズナの言う通り、もうここで良しとしよう。

 事実として、ジロジロと見て来ていたのはこの女性だけで、他の村人はそこまでこっちを見ている訳でも無いしな。


「そうだ。一つ教えて欲しいのだが」

「なぁに? 私の胸の大きさは……」

「いや、聞いてないからっ! そういう話ではなくて、この村はその……ひ、秘密があったりするのだろうか」


 カスミが言っていた、村全体で隠しているもの……その、何だ。

 残念ながら、俺には上手く話を聞きだす話術が無い事はよく分かった。

 こんな事をストレートに聞いてどうするのかと、口にしてから思ったのだが、


「ここはね、六合教が作った村なのよ」


 あっさりと話してくれた。


「六合教……というのは?」

「詳しくは私も知らないんだけど、王都に豪華な建物があるわよ。何でも、ジョブチェンジが出来る場所って有名みたいねー」


 ジョブチェンジというのが何かと聞くと、何でも神様から新たにもう一度ジョブを授かれるのだとか。

 ナズナも知らず、凄い事だな……と話して居ると、


「ただねー、結構高額らしいわよ。六合教の人たちは、金の亡者って呼ばれているらしいし」

「ん? ここに住んで居る者たちは、六合教の者ではないのか?」

「違う違う。だって私、元々は普通の冒険者だもん。新しい装備を買うのに借金をしたんだけど、ちょっと失敗しちゃってねー。お金が返せなくなったから、この村で働かされているのよー」


 意外な話が出て来た。

 装備を整えるのに借金か。冒険者ギルドだと、どうなのだろうか。幸いというか、金を借りて活動した事がないから分からないな。


「ねぇねぇ、いっぱいお話ししたでしょ。立ち話も疲れちゃったし、少しくらい家に寄っていってよー。さっきも言ったけど、お茶が有名なんだからー」


 うーん。ついて行くのは危険な気がするが、何故かこの女性はいろいろ話してくれるし、六合教というのが気になるな。


「……まぁ少しだけなら」

「やったぁ! じゃあ、アレックスちゃん。こっちへ来てー!」

「あ、アレックスちゃん!? お姉ちゃんも一緒に行くからねっ!」


 近くの小さな家に案内され……うん。中に人が居る気配は無いな。

 ナズナと共に、家の中へ入ると、


「アレックスちゃん! んー……えへへー! アレックスちゃんは可愛いねー!」

「あぁぁぁっ! ちょっと、私のアレックスちゃんに何をするのっ!? アレックスちゃんも、光っている場合じゃないよっ!」


 突然唇を塞がれ、口に舌が……俺が感じていた嫌な予感は、こっちの危険だったのか。

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