第724話 ディアナのお願い

 馬は買えなかったが、馬車を俺が引いて荒野を進んで行く。

 うん。シアーシャが辛そうではないし、ツェツィがナターリエと楽しそうに母娘の時間を過ごし、ミオやグレイスがまったりと景色を楽しんでいる。

 馬車を買って良かったな。正直言って、良い事だらけだ。

 まぁ相変わらずユーリは俺の背中におぶさっているが、まだまだくっつきたい年頃なのだろう。

 ユーディットから長い間離れてしまっているのは、申し訳なく思うので、せめて俺には思う存分くっついてくれれば良いと思う。

 そう思っていたのだが、突然ディアナが馬車を引く俺に抱きついて来た。


「ディアナ? どうしたんだ?」

「あのねー、にーににお願いがあるんだー!」


 何だろうか。

 移動が辛いという事であれば、馬車で解消されたと思うのだが……いや、違う。

 ディアナは走るのが好きだから、ただ座っているだけの今の状況が逆にストレスなのか。

 困ったな。分身に馬車を引かせて俺がディアナと一緒に走る……というのは、まだ出来ない。

 カスミやサクラ程に、分身の操作に長けていないからな。


「……えっと、何となくは察した。出来るだけ要望は叶えたいから……そうだな。どこか日陰があったら、そこでしようか」

「ホントっ!? わーい、にーに大好きー!」


 そう言って、横から抱きついていたディアナが、俺の身体に抱きついたまま正面に移動してきた。

 まぁ背中側はユーリの指定席みたいになっているからな。

 ディアナも軽いし、馬車を引くのに大した影響は無いから、このまま行こう。

 ちなみに、魔物が出たらすぐに剣を抜けないという欠点もあるのだが、ミオが馬車を起点として結界を張ってくれている上に、ヴァレーリエとナターリエの二人の竜人族が居るからか、全くと言って良いほど魔物が寄って来ない。

 という訳で、ディアナとユーリに抱きつかれながら暫く歩くと、約束していた影……大きな木と小川を見つけたので、そこで休憩にする。

 ……もう少し大きな河なら、グレイスに船を出してもらってアマゾネスの村で休めるのだが、軽く飛び越えられる程度の川なので船は無理か。


「ディアナ、お待たせ。じゃあ、やろうか!」

「うんっ! そうだねー……にーに! あの岩の裏にしよう!」

「わかった。よし、スタートっ!」


 ディアナの事なので、もっと遠くまで走りたいと言いだすかと思ったのだが、思っていたよりは近かった。

 まぁいくらパラディンの防御スキルを使用し、ミオの結界などがあると言っても、離れ過ぎは良くないとディアナも分かってくれているのだろう。

 ひとまず全力で走り、岩の裏へ。

 当然俺がディアナに勝てる訳がなく、少し遅れて到着すると、


「にーに! 早く早くー!」

「えっ!? でぃ、ディアナ!? ど、どうして裸なんだ!?」

「ん? だって、にーにがお願いを聞いてくれるって言ったもん! 早くしようよー!」

「……一応確認するが、ディアナは俺に何をお願いしようとしていたんだ?」

「昨日の雪の中とか、夜にベッドでしてくれたみたいに、温かくして欲しいの! お腹の中から!」


 ……た、対応を間違えたっ!

 ちゃんと最後までディアナの話を聞くべきだったぁぁぁっ!

 くっ……ディアナなら、ナターリエやモニカみたいな事は言いださないと思ったのに!


「にーに、約束だよー! 早く、早くー!」

「そうです。ご主人様。早くお願いします」

「……って、モニカ!? ……いや、ミオやグレイスに、ヴァレーリエとザシャまで!?」


 気付けば、ナターリエとツェツィ、ユーリの三人を除いて全員居るんだが。


「にーに、早くー!」

「アレックスよ。馬車なら我の結界で守っているから心配無用なのじゃ」

「流石にツェツィはまだ早いって、ウチがナターリエを説得したんよー。褒めて欲しいんよ」


 ディアナがおねだりし、ミオが妖艶な笑みを浮かべ、ヴァレーリエが甘えるようにして抱きついてくる。

 えっと、南に……魔族領を探しに行くんだが。


「にーに、約束ー!」

「アレックスよ。我は馬車の中ででも良いのじゃが?」

「アレックスー。ドラゴンを増やすんよー!」


 集まっている女性陣は諦める様子はなく……待てよ。

 馬車で移動なのだから、皆を気絶させて馬車に乗せてしまった方が早い!

 早速分身を使って皆を……って、何か間違っている気もしてきたが、出来るだけ早く終わらせる事にした。

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