第725話 馬車で高速移動

「~~~~っ!」


 ヴァレーリエに時間が掛かったが、全員気絶させる事に成功した。


「にーに。どうして、皆……寝ちゃっ、たの?」

「み、皆疲れていたんじゃないのか?」


 とはいえ、流石にディアナへ本気モードの分身を当てがう訳にもいかず、俺とまったり過ごしているが。


「さて、ディアナももう良いだろ? そろそろ出発しよう」

「うんっ! にーにのおかげで、お腹の中からポカポカだもん! ……でも、ポカポカだけど、タプタプでもあるけど」


 いやその、分身が頑張ったから、感覚を共有している俺としては仕方がない訳で。

 ニコニコと凄く機嫌の良いディアナと協力して、気を失っている者たちに服を着せ、馬車へと運ぶ。


「にーにー。ウチは、にーにみたいに運べないよぉー」

「いや、運ぶのは俺がやるよ。ありがとう」

「じゃあ、次はミオの服を……ねぇ、にーに。皆、どうして白い汚れが付いてるのかなー?」

「……ど、どうしてだろうな」

「あれ? そういえば、さっきウチが歩いた場所に白いのが……さっき、あんなのあったっけー?」


 ディアナが小首を傾げているが、とりあえず突っ込まずに、皆を馬車へ。

 最後にモニカを馬車の一番後ろの席に寝かせると、準備完了だ。


「よし、じゃあ出発……」

「あなた。皆さん、とーっても楽しそうでしたね。ここまで声が聞こえていましたよ?」

「な、ナターリエ。な、何だか目が据わっているんだが」

「皆さん、気持ち良さそうに眠っていますけど、もちろん私も愛してくれますよね?」

「は、ははは……はい」


 ナターリエが若干……というか、かなり不機嫌な様子で迫って来て、断る事が出来なかった。

 とはいえ、流石にそろそろ出発したい。

 という訳で、一番後ろの席に座り、


「≪分身≫」


 一体だけ分身を出すと、馬車を引く事に。

 要は、俺の本体を生贄というか、好きにしてくれという事で、ナターリエに手を打ってもらった。


「ツェツィー! まえのほうでユーリとあそぼー!」

「うん、いいよー!」

「ディアナも混ぜてー!」


 ユーリが起きている二人を前の席に連れて行くと、ナターリエが俺の本体に跨る。

 とりあえず、俺は視点を分身に切り替えて馬車を引くが……くっ! いきなりっ!?

 ナターリエは飛ばし過ぎだっ!

 まぁ本体のはナターリエの中に。分身は消せば済むので、馬車の中を掃除するはめにはならなさそうだ。

 だが、


「ん? あれ? いい香りがしてきたー! ツェツィこの香り好きー!」

「ホントだー! ウチもこの香りは好きなんだー! ……でも、さっき凄く嗅いだような……」

「前の方から……お父さんの分身さんから匂いがするのかなー?」


 せっかくユーリが俺の本体から離してくれたのに、これはマズい!

 ……い、急ごう。多少馬車が揺れても仕方がない。

 今まで歩いていたが、走るか。


「わぁっ! お父さん、凄ーい! 物凄く速ーい!」

「にーに、凄いねー! こんなに大きなのを引きながら、こんなに速く走れるんだー! 今はちょっと腰が痛いから、元気になったらウチも走るー!」

「きゃぁっ! あははっ! すっごく跳ねたー! 楽しーい!」


 走っているから、ちょっと大きめの石を車輪で踏んでしまったが、ツェツィたちが笑っているので、まぁ大丈夫だろう。

 というか、むしろ時々跳ねるのをツェツィたちが期待しているように思える。

 という訳で、ちょっとした石があれば、わざと車輪で踏むようにしながら走り、


「あはははっ! 凄い凄ーい!」

「にーに! これ、楽しいー!」

「ひぅんっ! はぅっ! 不規則に、予想出来ないタイミングで激しい突きが~~~~っ!」


 ツェツィやディアナが馬車の揺れを楽しんで、先程の香りの事を忘れているみたいだ。

 時々、物凄く大きな声が聞こえてくるけど……まぁツェツィたちが気付いていないから、このまま突き進もう。

 暫く走ると、速度を上げたからか、大きな街が見えてきたので、ちょっと休憩を取る事に。


「よーし。この街で休憩にしよう。ツェツィ、ディーネ、楽しかったか?」

「うんっ! お父さん、またしてねー!」

「にーに! ウチも、これ好きー! 楽しいのー!」


 何事もなく街を移動出来て良かったと思い、分身を解除して視点を本体に戻すと、


「~~~~っ! あぁぁぁぁっ! しゅご……あばばば」


 ナターリエが呆けた顔で痙攣していた。

 ナターリエっ!? どうしたんだ、ナターリエーっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る