挿話72 誰に視察へ行ってもらうべきか迷う冒険者ギルド職員のタバサ

「まったく! 何が奴隷解放よっ! エクストラスキルって何!? 誤魔化すにしても、もう少しそれっぽい事を言えば良いのにっ!」


 アレックスさんに独立国の事を聞こうとしたけど、下手な嘘を吐かれて終わってしまった。

 もぉっ! ギルドマスターに何て報告すれば良いのよっ!

 とりあえず視察に行くって話をしたけど、魔族領に行ってくれる職員も冒険者も居ないだろうなー。

 もう少し安全な場所なら、出張手当も付くし、行っても良い……いやでも、アレックスさんに襲われない?

 いやいや、私はアレックスさんがジョブを授かった直後の十五歳から担当しているし、モニカさんより少し年上だし、流石に襲われない……よね?

 そんな事を考えつつ、ギルドマスターの所へ。


「失礼します」

「お、タバサか。アレックスはどうだった?」

「それが……ですね」


 一先ず、アレックスさんから聞いた話をそのまま伝えると、


「んー、奴隷解放スキルか。俄かには信じられない話だな」

「ですよね。エクストラスキルとかって言っていましたけど、そんなの聞いた事がないですし」

「いや……エクストラスキルという名前ではないが、神のスキルというものが存在するというのを聞いた事がある」

「えっ!? そうなんですか?」

「あぁ。具体的な内容までは知らないが、各地のギルドマスターには知らされている。とはいえ、エクストラスキルが神のスキルかどうかは分からないが」


 神のスキル……そんなのがあるんだ。

 アレックスさんが、そんな事を知っているとは思えないし、まさか本当に!?


「ちなみに、独立の承認を行った国のギルドマスターに聞いてみた所、スノーホワイトと言う女性が幽閉されていたのは事実らしい。ただ、それが今どうなっているかは知らないそうなので、改めて調べてもらうように依頼しておこう」

「あの、そちらのギルドマスターさんから、直接宰相補佐の方に聞いてもらうとかは……」

「それは無理だろ。俺だって、この街の領主ならともかく、国の偉い人に会うツテなんて無いからな」


 うーん。となると、やっぱり直接見に行くしか無いのかしら?

 確か、あと二週間程でアレックスさんを召喚魔法で戻してくれる賢者様が来るはずだから、一週間後くらいに行けば、一週間視察して帰れるから、丁度良い頃合いね。

 ただ賢者様の予定は、アレックスさんが魔族領へ行った時に、最短で二か月後という回答だったから、改めて今の状況を聞いておかなきゃ。

 これで、予定がずれて、もう少しかかるって言われたら、視察に行ったは良いけど、帰れなくなっちゃうからね。


「そうだ。ギルド職員の誰かを現地に身に行かせるか」

「やっぱり……そうなりますよね」

「まぁ一番確実で手っ取り早いからな。ただ、帰って来るのに召喚魔法を使ってもらわないといけないって言うのがな。とりあえず……あの新人の女の子が居ただろ。何て名前だっけか……あの、いつもアワアワ言ってる奴」

「アワアワ……って、まさかティナの事ですかっ!? だ、ダメですよっ! 絶対にダメっ!」

「そうなのか? だが、タバサを視察に行かせると、窓口が回らなくなるだろ? 他の職員も同様で、人手不足なのに職員を一人減らすのは残るメンバーがキツイだろ。なら、新人のあの子が良いかと思うんだが」

「こ……コレットとかはどうですか?」

「コレットは、野郎ウケが良いからな。それに、アイツは女性が多い所へ放り込むと、絶対にそこをめちゃくちゃに掻き回すのが目に見えているんだが。本人が希望するならともかく、男が一人で女性が四人……アレックス曰くエルフが居るから五人らしいが、そこにコレットを入れると向こうが大変な事になるだろ」


 え、そうなの?

 ギルドマスターがコレットの事をパーティクラッシャーとか言って居るけど、本当かしら?

 でも、それはさておき、ティナは流石に可哀想過ぎる。

 本当の本当に新人で、数日前に来たばかりだから、いつもアワワワって言いながら、アタフタしているのに。

 コレットなら、アレックスさんに迫られても上手くあしらいそうだけど、ティナは絶対にダメ。

 確実にフィーネちゃんの二の舞になっちゃうから。


「あ、男性職員を視察に送るっていうのはどうでしょう?」

「いや、野郎の方が圧倒的に人手不足だって知っているだろ?」

「た、確かに……すみません。やっぱり無しで」


 男性ギルド職員は、街の人から聞いたダンジョンの情報や、依頼の内容確かめる為、実際にダンジョンへ調査に行き、そこに現れる魔物の強さなどを調べたりしている。

 その調査が行われないと、どれくらいの報酬が妥当かとか、どの等級の冒険者に依頼すべき案件かっていうのが分からないからね。

 なので、魔物と戦う事が前提で……まぁ魔物と戦いながらダンジョンの調査をするくらいなら、アレックスさんに守ってもらえる魔族領の方が良いんだけど……貞操の危機があるのよ。

 昼は魔物から守ってもらえるけど、夜は逆にアレックスさんから襲われる。

 うーん……いっその事、冒険者に視察を依頼しちゃう?

 それともギルドマスターを説得して私が行くべきか、コレットに立候補してもらって……どうしよう。

 とりあえず、ティナちゃんは守ってあげなきゃ!

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