第184話 叫ぶタバサ
「どこから話したものか……とりあえず、独立国については、スノーウィが好意でしてくれた訳で……」
「好意で国を作る!? というか、アレックスさんの仰るはスノーウィーマウンテンさんの事ですよね? その方、書類上は宰相補佐って書かれているんですけどっ!」
「あぁ、そういえばそんな事を言っていたな」
「軽ーいっ! 一国の宰相の補佐ですよっ!? めちゃくちゃ偉い人じゃないですかっ! 何か変な事をしていませんよね!?」
「あぁ、大丈夫だ。一緒に食事をして、ここで採れた作物が非常に旨いと言っていたな」
そうそう。その後、急に独立の知らせを届けて来たんだよな。
俺からはそんな話をしていないが、ネーヴやメイリンの話を聞いて、何か察したのかもしれない。
今回の独立国の話で一番喜んでいるのは、メイリンだろうし。
とはいえ、国名は相談させて欲しかったが。
「で、その宰相補佐の方と、どうして一緒に食事をする事になったんですか?」
「あー、妹を国へ連れ帰る為に転送装置で来たんだった。あの巨体で、なかなかスピードがあり、防御魔法まで使える凄い人だったよ」
「……ま、まさか、戦ったんですか!? 宰相補佐の方に攻撃したんですか!?」
「いや、攻撃といっても盾で吹き飛ばしただけだ。問題ない」
「大有りですよぉぉぉっ! ちょ、何してるんですかっ!? その方が大らかだったから良かったものの、最悪こっちの国とか、冒険者ギルドの責任問題に成りかねないですよぉぉぉっ!」
タバサの絶叫が響くが、あれはネーヴを守る為だったからな。
兄妹喧嘩だったと分かってからは、俺は手を出していないし。
「タバサ。息が荒いぞ。一度、深呼吸した方が良い」
「誰のせいでこうなっているんですかぁぁぁっ!」
タバサの為を思ってアドバイスしたら、怒られてしまった。
……何故だ。
「……はぁ。で、その妹さんも転送装置で魔族領へ来たんですか? で、アレックスさんがフィーネちゃんみたいに手を出したと」
「いや、さっきも言ったが、ネー……スノーホワイトには何もしていないって」
「では、どうしてスノーホワイトさんは、魔族領に残ると? 宰相補佐のお兄さんが迎えに来たのだから、国へ帰るのが普通ですよね?」
「いや、詳しい事は俺も知らないのだが、スノーホワイトは国で幽閉されていたらしくてな。それを俺が助けたから……」
「あの、意味が分からないんですが、幽閉されていたスノーホワイトさんが、どうして魔族領に来ているんですか? それに、アレックスさんが助けたっていうのは、どういう事ですか?」
「あぁ、話せば長くなるんだが、魔族領へ来て、奴隷解放スキルというのを得て……」
一先ず、来てすぐに奴隷解放スキルを手に入れた事と、そのスキルの説明。それから、助けたエルフのリディアのおかげで、食べ物に困る事が無いという話をすると、何故かタバサが大きな溜息を吐く。
「アレックスさん。そんなスキル聞いた事もありませんし、エクストラスキルって何ですか? そんなスキルがあれば、今頃もっと大騒ぎになっていますよ」
「いや、そう言われても本当の事なんだが」
「分かりました。そうまで言うなら、ギルドから誰かを派遣して視察致します。と言っても、今すぐという訳にはいきません。仕事の調整や準備に暫く掛かりますし、誰を視察に行かせるかという話にもなるでしょう。数日間あげますから、もう少しまともな言い訳をお願い出来ますか?」
「タバサ。待ってくれ。俺はパラディンの――聖騎士の名に誓って真実を……」
「アレックスさんは性騎士……こほん。夜の営みも程々にしてくださいね。ではまた連絡します」
「お、おい。タバサ……」
一方的に通話魔法が終えられてしまった。
この場にリディアが居てくれたら信じてもらえたのだろうか。
もしくはネーヴ本人とか。
とりあえず、ギルド職員の誰かが来るなら別で部屋を用意……というか、この小屋にベッドを作ってもらおう。
天使族やスノーウィの為に、来客用の宿を作る予定ではあるが、まだ完成していないからな。
食事は一緒に取るとして、ここなら風呂も近いし、俺たちと離れているから、気兼ねなく過ごせるだろう。
何より俺たちもそうだが、ツバキが暫く住んでいたし、問題ないはずだ。
相変わらずノーラの負担が大きいので、皆にも手伝ってもらう事にした。
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