挿話22 夜に頑張ろうとするウィッチのフィーネ

「んー、やっぱりー、おつかいの依頼に比べたら、薬草摘みの方がまだ良いよね?」


 数日後に魔族領? っていう所へ行けば、食べる事には困らなくなるって言われたんだけど、そこへ行くまでの数日間は、自分で頑張らないといけない。

 なので、誰に言う訳でもなく、独り言と共に何のお仕事を受けるか考えていると、


「ん? お嬢ちゃん。金に困っているのか? だったらオジサンが簡単な仕事を紹介してやろうか?」


 ちょっと小太りのオジサンが話し掛けてきた。

 冒険者には見えないから、どこかの商人さんなのかな?


「え? ホント!? あ……でも、数日で良いの。フィーネ、数日後には別の所でお仕事するって決まっているから」

「そうなのか? でもオジサンについて来たら、ほんの数時間で沢山お金を稼げるぜ? しかも、全然キツくないし、むしろ気持ち良くしてや……あ、いや。何でもないんだ。じゃあ、またな」

「え? あれ? ……何だったんだろ?」


 話し掛けてきたオジサンが急に何処かへ行ってしまったと思ったら、

 

「フィーネちゃん。ちょっと良いかしら」

「あ、タバサさん。何ですかー?」


 私のすぐ後ろに、タバサさんが立っていた。

 それから、小さな部屋に連れて行かれ、


「あのね、フィーネちゃん。あぁいう、怪しい変な人の話を聞いちゃダメよ?」


 ちょっとだけ怒られてしまった。

 話を聞く……というより、フィーネは話し掛けられただけなのに。

 あ、そっか。冒険者のお仕事は、全て冒険者ギルドを通さなくちゃダメなんだっけ。

 だから、さっき話し掛けられた時、そのままオジサンと一緒に、ギルドの受付に行けば良かったんだ。


「はーい。わかりましたー!」

「まぁ分かったなら良いんだけどね。……そうだ。この後、前に言った魔族領へフィーネちゃんを送る話なんだけど、ギルドマスターに承認してもらったの。後は、向こうにいるS級冒険者、アレックスさんが了承すれば……」

「アレックスさん!? それって、ステラさんとパーティを組んでいた、絶対に守ってくれるっていう、あのアレックスさんですか!?」

「えぇ。おそらく、そのアレックスさんよ」


 アレックスさん……もしかしたら、フィーネを不幸から守ってくれるかもしれない、騎士様に会えるんだ!


「あの、アレックスさんって、白い馬に乗っていたりします?」

「え? 馬に乗れるかどうかは分からないけど、魔族領に馬は居ないと思うわよ?」

「じゃあ、実は何処かの国の王子様とか」

「……違うと思うけど」


 残念。白馬に乗った王子様ではないんだ。

 でもでも、ステラさんがあんなに褒めていたんだから、きっと良い人だよねっ!


「……フィーネちゃん。先に言っておくけど、魔族領にはアレックスさんを含めて、三人住んでいるの。ウィザードのエリーちゃんと、マジックナイトのモニカさん……つまり、女性が二人居るの」

「……? それが、何かダメなんですか?」

「ハッキリ聞いた訳ではないけど、私の考えでは、エリーちゃんとモニカさんのどちらかが、アレックスさんの恋人よ」

「えぇっ!? フィーネを助けてくれる騎士様なのにっ!?」


 会った事ないけど、凄く格好良いアレックスさんがフィーネを守ってくれて、仲良くなった後、フィーネと結婚するんじゃないのっ!?


「いえ、助けてはくれると思うわよ? ただ、フィーネちゃんが変なイメージを持っている気がしたから。でね、そのエリーちゃんとモニカさんなんだけど……」


 あ、でも待って。

 よく考えたら、フィーネのお母さんたちは仲が良かったよね。

 別に、アレックスさんに恋人が居たとしても、フィーネと結婚してもらえば、いっか。

 ただお父さんは、奥さんが複数いると夜が大変……って言っていた気がするけど。

 何がどう大変なのかは教えてくれなかったけど、そこはフィーネがアレックスさんに協力して、二人で乗り越えて行けば良いもんね。


「……という訳で、修羅場だった場合は巻き込まれないようにしてね?」

「はーい! 分かりましたー!」

「……突然元気になったけど、私の話は理解出来た? この、夜の話については、あんまり喜ばしい状況では無いんだけど」

「えーっと、フィーネも頑張ります」


 考え事をしていて、タバサさんの話を全然聞いてなかったけど、夜が大変っていう話……だよね?

 夜に何をするのかは分からないけど、フィーネもアレックスさんと一緒に頑張るつもりだし、きっと大丈夫っ!


「私としては、夜にフィーネちゃんが頑張らないといけない状況っていうのは、避けて欲しいんだけどね。アレックスさんの獣モードが終わっているはずだから、大丈夫とは思うんだけど……」


 獣モード? アレックスさんって、獣人族なのかな?

 だったら、フィーネのもう一人のお母さんと一緒だね。

 でも、お父さんが、フィーネのお母さんも夜は獣って言っていたような……獣人族じゃないのに。

 一先ず、この話は置いておいて、フィーネもアレックスさんと一緒に、夜は頑張ろーっと!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る