挿話83 魔族領へ来てしまったプリーストのステラ
「ステラさーん!」
「おはようございます、タバサさん。アレックスさんの所へ行くお話ですよね?」
「あ、うん。その話に関連する事で、ちょっと……」
エリーさんともう一人の誰かが妊娠したので、高位の治癒魔法が使えるプリーストとして、魔族領へ行って欲しいという依頼を受け、準備を整えて冒険者ギルドへやって来た。
私が一時的に魔族領へ行っている間、代わりにパーティのヒーラーを担当してくれる、アコライトっていうジョブの人とも引き継ぎを済ませたし、あとは私が向こうへ行くだけ……という状況なんだけど、何かあったのだろうか。
ステラさんに呼ばれ、ギルドの奥にある個室に入ると、幼い女の子が居た。
「あっ! は、はじめましてっ! わ、私ティナっていいます。ど、どうぞ、宜しくお願いしまちゅ……します」
「ステラです。宜しくお願いしますね」
まだ十代前半の子供に見えるけど、冒険者ギルドに居るっていう事は、成人……少なくとも十五歳なのよね? ……見えないけど。
「あの、ステラさん。今回の魔族領へ行ってもらうお話なんですが、このティナが同行します。というのも、行き先が行き先なので、戻って来るのに賢者様をお呼びして召喚魔法を使っていただく必要があるのですが、その為には魔力のサンプルが必要なんです」
「つまり、ティナさんは魔力のサンプルを採取済みなので、ティナさんと一緒に居れば召喚魔法を使っていただく際に、私も一緒に帰れるという事でしょうか?」
「流石、ステラさん。その通りです。数日後に賢者様が来てくださる予定で、召喚魔法を使っていただく前に通話魔法で呼び掛けますので、その際にティナと手を繋いでいただくと、こちらへ戻って来られます」
タバサさん曰く、ティナさんはまだギルド職員見習いらしく、本当はコレットさんという中堅の職員が視察を兼ねて行く予定だったのだとか。
ところが、レッドドラゴン目撃の話でスケジュールがズレてしまい、コレットさんがどうしても行けなくなってしまったと。
で、レッドドラゴンを追い払う事に成功し、念の為に日々警戒していると、シーナ国が発表したので、このタイミングで行く事になったらしい。
「あ、あの、私の主な仕事は魔族領の状況を報告する事で、その……あ、赤ちゃんの事とかについては、全然お役に立てないかもしれませんが、頑張りますっ!」
「あはは、そっちは私のお仕事だから大丈夫ですよ」
「さ、流石、大人の女性は違いますね! わ、私なんて男性経験どころか恋人さえ居た事がないので……」
わ、私だって男性経験なんて無いわよっ!
けど、羨望の眼差しみたいなのを向けられているから、ティナさんの為にも黙っておくけどね。
「や、やっぱり、胸が大きくないとダメなんでしょうか?」
「あー、言われてみれば、向こうにいる三人……エリーちゃんも、モニカさんも、フィーネちゃんも全員胸が大きいわね。あとステラさんも」
「た、タバサさん!? いきなり何を仰るんですかっ!?」
というかティナちゃんは、これから育つと思うから気にしなくて良いと思うのだけど。
あと胸が大きい三人って、アレックスさんの好みの話では?
……わ、私は狙われたりしないわよね?
というか、アレックスさんはエリーちゃんの旦那さんになる訳だし、流石に私はそんな事をしないけど。
それに、前まで一緒にパーティを組んで居たけど、そんな素振りは一切なかったしね。
「さて。冗談はこれくらいにして、アレックスさんに連絡をとりましょうか」
「た、タバサ先輩。じ、冗談って、私は割と真剣に……」
「はいはい。そろそろ通話魔法を使うから静かにね……アレックスさん。居られますかー? アレックスさーん!」
タバサさんが呼び掛けけど、反応が無い。
けど、これはいつもの事らしくて、暫くすると、
「すまない、待たせたな」
久しぶりにアレックスさんの声が聞こえてきた。
「前に依頼された、ステラさんにそちらへ行っていただく件です。本人に了承を貰い、今から行っていただこうと思っていますが、大丈夫でしょうか?」
「あぁ、構わないぞ」
「分かりました。一応、ステラさんの分の食料も、後ほど追加でお送り致しますね。……で、それとは別に、冒険者ギルドから職員を一名派遣致します」
「ギルドの職員を? 構わないが、どうしたんだ?」
「アレックスさんがエルフや竜人族が居るとか、いつも意味不明な事を言ってくるのと、何故か国になってしまったので、その視察です」
「分かった。そういう事なら大丈夫だ」
大丈夫なんだ。
第四魔族領は不毛の地なのと、エルフはともかく竜人族だなんて実在するのかしら?
「では、少しお待ち下さいね。後は、そちらでステラさんと、ギルド職員のティナに話を聞いてください……じゃあ、行きましょうか」
タバサさんに案内されて、ギルドの奥にある部屋へ行き、ティナさんと一緒に魔法陣の中へ。
「ど、ドキドキしますね。わ、私……転送装置って初めてなんです」
「私も初めてだけど、アレックスさんもエリーちゃんも使っているから大丈夫じゃないかしら」
「えぇ、心配しなくても大丈夫よ。じゃあ、行くわよ」
タバサさんの声と共に淡い光に包まれ……気付いた時には視界が一瞬で変わっていた。
「ステラ。よく来てくれた、本当に助かるよ」
「アレックスさん。お久しぶりです」
久しぶりにアレックスさんと会い、どこも変わって……見た目は変わってなさそうだけど、何だか雰囲気が変わったのかな?
何となくそんな事を思いつつ、ふと視線を感じて顔を横に向けると、扉の隙間から中の様子を伺う人が。
エリーちゃんかな? と思ったんだけど……待って! 少なく見ても十人くらい女性が居るんだけど、どういう事なのっ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます