第285話 フィーネの母親の情報

「ねぇねぇ、お兄さん」

「ん? どうしたんだ?」

「お兄さんは、この国の王様なんだよね?」


 シェイリーの所でスキルの話を聞いた後、元の作業……ソフィが提案してくれた魔法装置を使う為の準備として、リディアやメイリンと共に石の壁の拡張をしていると、テレーゼが背後から抱きついて来た。


「一応、書類上はこの国の王だが、俺としては実質メイリンだと思っている。というのも、元々メイリンに祖国を復活させたいという想いがあったし、この辺一帯は黒髪の一族という者たちの国だったと聞いているし」

「旦那様。妾は旦那様の子を沢山生んで、しっかり国を復興させますね」

「アレックスさん。わ、私だってアレックスさんの子供を生みますからっ! だからエルフの村にも来てくださいねっ!」


 テレーゼの質問に答えたら、メイリンとリディアに抱きつかれてしまったが……とりあえず、俺も含めて作業を進めような。


「あ、ごめんね。誰が国王でも良いんだけど、お兄さんは偉い立場みたいだから、机に座って書類とか資料を見たりする仕事とかはしないのかなーって思って」

「あ……そういう事か。すまん。まだテレーゼに役割を振っていなかったな。そういった書類関係の仕事をしたいという事なんだな。しかし、その手の仕事はメイリンがやってくれているから……」

「妾としては、お手伝いしてくださるなら歓迎ですが。そういった作業はネーヴさんくらいしか興味をもってくれないので」


 う……立場上は国王と言われながら、その辺りの事は一切やっていないからな。

 メイリンもネーヴも申し訳ない。

 時折、ユーディットが天使族を連れて来たりしているし、裏で天使族の村やネーヴの国と作物などを用いて交易してくれているのだろう。

 心の中で二人に謝っていると、


「あ、違うの。書類のお仕事がしたいんじゃなくて、お兄さんが机でお仕事をするなら、私はその机の下に潜むお仕事がしたいなーって思って」

「ん? 机の下に潜む仕事とは?」

「もちろん、お兄さんがお仕事をしている間中、アレを飲み続けるお仕事だよー。私はお兄さんのが飲めて幸せで、お兄さんは気持ち良く仕事が出来て幸せ……夢魔族でこのお仕事をしている子は結構いるって聞くよー!」


 要は、大きな机に向かって書類にサインしたりしている間中、ずっと下半身丸出しでテレーゼに……って、変態じゃないか。


「いや、流石にそれは無いかな」

「そっかー、残念」

「……それ、乳女さんがやりそうですね。いえ、やらせませんけど」


 とりあえず、今日のところはテレーゼに作物の収穫を依頼し、今行っている拡張が終わったら、メイリンのサポートに就いてもらう事にした。

 それから作業を行い、食事の時にフィーネを紹介したのだが……残念ながら互いに面識は無いようだ。

 フィーネは元々お母さんを探していたし、何か手掛かりになれば……とも思ったのだが、そう上手くはいかないらしい。

 しかし、皆で風呂を終えた後、


「≪夢見る少女≫」


 いつものようにフィーネが皆を眠らせると、テレーゼが慌てだした。


「えっ!? フィーネちゃん……そのスキルは!?」

「お母さんに教わったスキルだけど……テレーゼさんには効かないんだー」

「夢魔族のスキルは同族には効かないから……それよりも、フィーネちゃんのお母さんの名前は!?」

「フローラだよー?」

「あぁぁぁ、す、凄いっ! フローラ様の娘さん!?」


 あれ? さっき名前を聞いた時はここまでの反応は……あ、フィーネが父親性を名乗ったからか。


「えっと、もしかしてお母さんは、有名な人なのー?」

「有名も何も、夢魔族では伝説とされている人だよ! 夢魔族のスキルを生み出した凄い人で、私の淫紋スキルも元はフローラ様が作って、私のお婆ちゃんとかが教わったはずだから」

「テレーゼさんのお婆ちゃん……って、あれ? 私のお母さんって何歳なんだろ。見た目は二十歳くらいだったけど」

「私が百三十才になったばかりだけど、フローラ様は千歳を越えているんじゃないかなー? でも、男性の精力で不老になるスキルを作り出したハズだから、見た目も中身も若いんだと思うよー」


 不老スキルは凄いな。

 ……カスミも年齢に対して見た目が若過ぎるんだが、同じスキルを持っていたりするんだろうか。

 しかし、今更ながらに考えてみると、フィーネのおまじないスキルはヴァレーリエに効かなかったが、この眠らせるスキルはしっかり効いている。

 そのフィーネのお母さんが作り出したスキルは、かなり凄いみたいだ。


「お母さんが不老という事は、きっと今も何処かで生きている可能性が高くて……アレックス様! フィーネはお母さんを探したいです!」

「あぁ、それは勿論構わない。とはいえ手掛かりが欲しいところだが……テレーゼは何か知らないか?」

「流石に今どこに居られるかは、分からないよー」


 テレーゼが困っているが、まぁ仕方ないだろう。

 とりあえず、今度ウララドの街へ行った時に、ジュリやマミに聞いてみようと思っていると、


「とはいえ、それはそれとして……アレックス様」

「ようやく夜だねー。皆眠って居るし、朝まで楽しもうねっ!」

「マスター。そろそろ私も参加して宜しいでしょうか?」


 これまでの話をぶった切り、フィーネ、テレーゼ、ソフィとの長い夜が始まってしまった。

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