第690話 歓迎の宴
「旅人よ! ようこそ、我が村へ。この村は、近くに水場こそないものの、井戸水を使って大規模な畑を作っている。食べ物や酒は沢山あるので、是非沢山飲んで旅の疲れを癒してもらいたい」
「いきなり来て、このような歓迎をありがとうございます」
「いや、気にしないでもらいたい。ワシは村の外の話を聞くのが好きなのだ。その話を聞かせてもらえれば十分だ」
村長の家に通されると、歓迎の宴を開くと言って、大きなテーブルのある部屋へ通された。
すぐに料理を用意させるからと、その準備が出来るまで、先ずは酒を飲んで待っていて欲しいと、並々と注がれる。
俺はパラディンの状態異常耐性で酔う事はないのだが、他の者たちは大丈夫だろうか。
「……って、ディアナはやめておこうか。すまないが、ディアナとユーリ……ファビオラとグレイスもか? この四名には水をお願いしたいのだが」
「チッ……こほん。わかりました。少々お待ちください」
今の男……舌打ちしていなかったか?
というか先程の男に限らず、周囲に待機している給仕係の者は全員男で、皆ギラギラした目を女性陣に向けている。
特に視線を浴びているのが……あー、モニカか。
一応、露出を抑えるようにと、さっき羽織る物を渡したのだが、この村長の家へ来るまでの間はいつも通りの格好だったからな。
ちなみに、その次に視線を集めているのはファビオラで、次いでザシャといった感じか。
とはいえミオやディアナ、ユーリに視線を向けている者も居て、
「パパー! パパのおひざのうえに、すわってもいいー?」
「あぁ、勿論構わないぞ」
「わーい! ありがとー、パパー!」
ユーリが視線に耐え切れなくなったのか、それともただの気分か、俺のところへやって来た。
すると、そのユーリの行動を皮切りに、
「にーに。ウチも隣に座るー!」
「わ、私も……お隣が良いです」
「アレックス様。私も……あ、空いてないっ!? せ、せめてお傍に居させてください」
ディアナとファビオラに、グレイスも近くへやって来る。
「はっはっは。アレックス殿は、女性陣からモテモテなのですな」
「そ、そうですね。ありがたい事に」
「ほほう、それは羨ましい。もしや、旅をして来た街や村ごとに、愛人が居たりするのですかな?」
「まさか。そんな訳ないですよ」
これまでいろいろあったが、愛人を作ろうだなんて考えた事は無い。
アレな事になってしまった女性には、全員責任を取るつもりでいるし、全員妻だからな。
それから、村長にいろんな場所の質問をされ、今まで行った事のある場所の話をしていると、
「……おい。そろそろ良いんじゃないか?」
「そうだな。あー、あのムチムチ女の身体……たまんねぇぜ」
「だが、変だな。かなりの量を飲んでいるはずなのに、誰一人として潰れないぞ? 特にあの男には、強烈な奴を持って行っているんだが……どうなっているんだ?」
ひそひそと話す声が聞こえてくる。
なるほど。酔い潰して、俺たちを襲う気か。
だがその可能性も考え、ユーリから酒に弱いモニカへ状態異常回復魔法を定期的に掛けてもらっている。
ちなみにザシャとシアーシャとミオについては、酒で潰れるタイプではないと考え、何もしていないが、思った通り大丈夫そうだな。
さて、俺たちを狙っているという事がわかったし、酒ではなく毒が盛られる前に片付けるか。
ただ、制裁対象はこの村の男だけなので、村の女性が巻き添えにならないように気を付けなければならないが。
「ところで、この村には女性が見当たらないのですが、どちらにおられるのですか?」
「――っ! アレックス殿よ……そこに触れてしまわれるか」
「えぇ。この村の人たちが、俺の妻や娘に変な事をしようと企んでいるようなのでね」
「妻!? くっ……やはり結婚しているのであれば、妻以外の女をもらっても構わいませんな?」
「ここに居るのは、全員俺の妻と娘だと言っているんだ!」
そう言って、背後からファビオラに飛びつこうとしていた男を蹴り飛ばす。
「ミオ! 結界を頼む! 女性陣に近付けないようにしてくれ」
「ふっ……任せるのじゃ! ……≪六壬≫!」
ん? 今、ミオが使ったスキルって結界ではなくて、誰かを召喚するスキルじゃなかったか!?
……って、ミオの顔が真っ赤なんだが!
普通に酔っぱらっているじゃないかっ!
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