第689話 荒野の村

 ひとまず、泡魔法で身体を綺麗にし、皆で南へ向かう事に。

 しかし、南へ向かう事にしたものの、どれくらい南へ行けば良いのだろうか。

 このまま真っすぐ南へ向かい、上手く魔族領に到達出来れば良いのだが。


「アレックス。さっきので魔力がかなり補充されたから、ちょっと空から見てみようか?」

「それは助かる。頼むよ」

「わかった。あ、普通に追いつけるから、そのまま南へ進んでおいて」


 ザシャが飛行魔法を使い、空へと昇って行く。

 いつもザシャが飛行魔法を使う時は何かを運んでいたからか、今はいつもより速く飛んでいる様に見える。


「にーに。ザシャさんって、ユーリちゃんみたいにお空が飛べるんだねー! いいなー! ウチも飛んでみたい」

「ふふふ、ディアナ殿。ご主人様のアレをいただけば、空を飛ぶような気持ちで、身体が宙に浮くのだ」

「そうなのー? にーに、アレってなーに? ウチにもちょーだい! 身体が浮くっていうのをやってみたーい!」

「待つのだ。ご主人様のアレをいただくには準備が必要で、まずは口で……」


 いや、モニカはディアナの前で何をしようとしているんだよっ!

 とりあえずモニカを制し……何故か近付いて来ていたミオも止める。


「足りぬのじゃ。アレを見せつけるだけ見せつけておいて、我には無いというのは酷いのじゃ」

「にーに。ウチにも、アレをちょーだーい!」

「ご主人様! 私は走りながらいただくアレをお願いしたいです!」


 先程のバンシーとの事をミオが未だに言い続け、ディアナは俺の腕にしがみ付き、モニカは歩く俺に抱っこをせがむ。

 いや、ディアナの前でそんな事を出来る訳が無いし、背中にユーリまでいるんだからな?

 変な事をディアナに教えるなと、モニカに目で訴えかけていると、何を勘違いしたのか、服を脱ごうとしたので力づくで止めておいた。


「アレックス。先程の位置とあまり変わっていないような気がするが……それはさておき、このまま真っすぐ南下すると、荒野が続くだけだな」

「そう……なのか」

「あぁ。だけど、南西に進路を向ければ村があるな。とりあえず、そっちへ向かってみないか? ある程度泡魔法で綺麗になっているとはいえ、ちゃんと身体を洗いたいしな」


 ザシャの意見に、シアーシャやグレイスが激しく首肯しているので、一旦村へ向かう事に。

 魔族領から逆走している訳ではないし、南には何もないそうなので、少しくらい大丈夫だろう。


「わかった。じゃあ、ザシャは先導を頼む。あと、モニカは最後尾を任せた」

「任せておくれ」

「えぇっ!? ご主人様っ!? そんなぁ」


 宣言通りザシャを先頭に暫く進むと、言っていた通りレンガで作られた家のようなものが遠目に見えた。

 この辺りは土で家を作る文化のようだし、カタコンベなどではなく、今度こそ人の居る村であって欲しい。

 そう願いながら村と思わしき建物に近付いていくと、幾つかの家があり、畑仕事をしている獣人が見える。

 良かった。期待通り、村だったようだ。

 ひとまず、宿がないかと思いながら中へ入ると、


「ん? 何者……お、女が居るだとっ!?」


 村の入口で男性が声を掛けてきた。


「すまない。俺はアレックスという旅の者なのだが……女性が居ると何かマズいのか?」

「あぁ、絶対にダメだ! 悪い事は言わない。今すぐ村を出るんだ!」


 村人が凄い剣幕で俺たちを追い返そうとしてくる。

 だが害意は感じられないので、何か理由があるようだ。

 ひとまず、何か事情があると察して、皆を連れて村から離れようとしたところで、


「むっ!? 旅人か? ……なっ!? お、女っ!? おい! 女が居るぞっ!」

「女だって!? ほ、本当だっ! 女だっ!」

「女が居る!? ……うわ、マジだっ!」


 奥から他の村人が現れ、全員で女性の存在に驚く。

 ……よく見ると、砂漠の村や街とは逆で、男ばかりだな。

 地下に女性が居るのか?


「旅のお方。こちらへどうぞ! 長旅で疲れたでしょう。村長の家が広いので、案内します! きっともてなしてくれますよ」

「そ、そうだな。うちの村の村長は、旅人の話を聞くのが大好きなんです。美味しい料理や酒も振舞ってくれるかと」

「お、女……っ! ふぅ、そちらの皆様も、どうぞこちらへ」


 よくわからないが、最初の村人とはうってかわって、村へ入るように促されてしまった。

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