第845話 旅の目的

 ドワーフの女性たちが宿に泊まれる事になり、ブレアとモニカを護衛として残してきた。

 残る俺たちは馬車の座席で横になって寝る事になってしまうが、グレイスの空間収納に毛布などもあるし、ミオの結界もあるので大丈夫だろう。

 ……念の為、石の壁で周囲を覆っておけば、更に安全だろうしな。


「うふふ。今日はお昼前に、その気になったのに、お預けになっちゃったから、ずっと身体が疼きっぱなしだったのよね。アレックス、今夜は寝かさないわよ?」

「いや、明日はメリナ商会の本部を叩くから、しっかり休んでもらいたいのだが」

「そう言いながら、一番寝かす気がないのがアレックス……というか、分身たちなのじゃ。まぁ体力が無い者たちは、早々に気絶して戦線離脱するがの」


 見えないオティーリエと、ニヤニヤ笑うミオに挟まれながら、馬車へ。

 とりあえず、俺がオティーリエに言った事は本心で、出来れば皆ゆっくり休んでもらいたいのだが、


「アレックスー! 待ってたのー!」

「アレックス様! 早く早くー!」

「父上。私も混ぜていただいて大丈夫ですよ?」


 マリーナやフョークラに、モニーが抱きついてくる。

 結衣やグレイスも近寄ってくるが、一旦落ち着いてもらおう。


「繰り返しとなるが、明日は奴隷商人の本部へ行く。だから……」

「でも、アレックス様とオティーリエさんに、ミオさんが揃っているんですよー? どれだけ疲れていたとしても、遅れを取る事なんて無いと思いますー!」

「いや、油断大敵と言うし、それに本番はメリナ商会の本部を潰した後だぞ?」

「……ん? アレックス様。どういう事ですか?」


 フョークラが一番重要な事を忘れているようで、小首を傾げる。

 というか、これが今回この国へやって来た一番最初のきっかけであり、目的なんだけどな。


「フョークラ。俺たちは元々、ニナの従姉妹にあたるララを助けにここへ来たんだ」

「あっ! そうでしたっ! すっかりアレックス様のアレをいただく旅……もとい、奴隷商人を潰して回る旅かと」

「……いや、その通りで、奴隷商人のメリナ商会を潰して回る旅でもあるが、メリナ商会の支部だけで、十六人もドワーフの女性がいたんだ。その本部にもドワーフの女性がそれなりに居ると思わないか?」

「そうですね。きっと、何人か……もしくは十数人くらい居るかもしれませんね」

「となると、その女性たちを連れ帰る事になった場合、馬車に乗り切れない可能性がある。結果、何人かには歩いてもらわないといけないかもしれないんだ」


 そこまで説明し、ようやく俺の懸念を理解してくれたのか、フョークラが俯きだす。

 そう。流石に今まで囚われの身だったドワーフの女性たちを歩かせる訳にはいかないし、背丈が小さく歩幅の短いマリーナやモニー、ミオを歩かせるのはどうかと思う。

 つまり明日は、ブレア、モニカ、フョークラにグレイスやオティーリエは、海まで歩かなければならないという事になる。

 その大変さに気付いたようで、フョークラが小さく身体を震わせながら、顔を上げ……目を輝かせた!?


「それはつまり、アレックス様の分身に抱っこしてもらい、走りながら突かれ続けるという、アレで海まで帰るという事ですね!? わぁ! 楽しみですー! 身体……もつかなー! すぐに気絶しちゃったら勿体ないですよね!」


 そう言って、フョークラが抱きついてきたのを皮切りに、オティーリエやグレイスも抱きついてくる。

 ……あれ? いや、違うんだ。今日はベッドなどで寝られる訳でもないし、しっかり身体を休められないだろうから、早く就寝しようと言いたかったんだ!

 どうやってこの状況を切り抜けようかと考えていると、大勢の何かが近付いてきた。

 これは……馬の走る音か? 三十人くらいの気配がする。

 かと思えば、この馬車の周囲を取り囲んだ。


「……この馬車か。おい! この中に男が居るだろう! 降りて来い!」

「ふむ。野盗か何かかの? 結界を張っておるから、入って来られぬのじゃ。とりあえず、我の結界で音を遮断して、始めるのじゃ」

「いや、何を始める気なんだよ。とりあえず、回りの奴らを何とか……って、あれ? 野盗の類じゃ……ない?」


 馬車の外の様子を見てみると、


「お前が奴隷商人か! 禁じられている奴隷の売人として、騎士団にて拘束する! あの男を捕らえよ!」


 武装した騎士たちに包囲されていて、何故か俺が奴隷商人呼ばわりされてしまった。

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