第846話 捕らえられたアレックス

「奴隷商人とは、どういう事だ?」


 取り囲んできた騎士たちの、隊長らしき男から意味不明な事を言われ、流石にカチンときて、馬車の外へ。

 俺の問いには答えず、他の騎士たちが俺に剣を突きつける。


「よし、連れて行け!」

「それより、俺の問いに答えてもらおうか」

「なっ!? こ、この男、なんて力だ……」


 隊長格の男の指示で、取り囲んだ騎士の一人が俺の腕を掴んできたが、当然俺は無視する。

 そのまま隊長格の男の前で動かずにいると、一人の騎士が剣を振り上げた。


「貴様っ! 従わぬというのなら斬……がはぁっ!」

やな、なんだっ!? おいっ! 何をしたっ!」

「気をつけろっ! 何か、不思議な力を使うぞっ!」


 俺は何もしていないのだが、男が吹き飛ばはされる。

 この初速がやたらと速い飛び方は……オティーリエか。

 相手が騎士だからか、ひとまず様子を見てくれていたようだが、俺を斬ろうとした奴は見過ごせなかったようだ。

 それを皮切りに、俺に向けられていた騎士たちの剣が、順番に折り曲げられていく。


「ひっ! な、何だこのスキルは!? 鋼鉄の剣が曲げられただとっ!?」

「待てっ! そこの男よ。我らに手を出せば……へげぅっ!」

「ま、待てと言っているだろう! これ以上、我らに手を出せば、宿でドワーフたちを見張らせていた、お前の仲間の女がどうなっても知らんぞ? あの二人は今、我々の手中にある」


 ドワーフを見張らせていた俺の仲間? ……誰の事だ?

 俺はドワーフたちを見張らせてなんて居ないのだが。

 訳がわからず首を傾げていると、


「アレックス。モニカとブレアの事じゃない? ここに居ないのは、あの二人だけだし」


 オティーリエの言葉でようやく事態に気付く。


「ミオ。宿の結界はどうなっているんだ?」

「破られたりはしておらぬのじゃ。じゃが、外から中へ入る事は出来ぬが、中から外には出られる。あの二人が、何か事情があって自ら結界から出てしまっていれば、その時に捕まっている可能性は否定出来ぬのじゃ」


 くっ……部屋毎に結界を張っておらうのではなく、宿全体に結界を張ってもらうべきだったか。

 いや、二人がどういう理由で部屋を出たかわからない以上、建物全体に結界を張っても同じ結果だったかもしれない。


「二人に何かしたら……俺はお前たち騎士団も潰す」

「はっ! 何を言って……」

「悪いが本気だ。メリナ商会と一緒に騎士団も潰す」

「うぐっ……ま、まぁ落ち着け。今はまだ無事だ。お前が大人しく囚われればな」

「ドワーフの女性たちは無事なのか?」

「当然だ。我々騎士団で保護している」


 騎士たちによると、モニカとブレア、そしてドワーフの女性たちは、既に騎士団の本部へ連れて行かれたようだ。

 というのも、宿屋の店員が村に駐在している騎士に、奴隷商人が来たと通報したのだとか。

 もしかしたら、この国ではドワーフといえば奴隷……と思われていて、ドワーフの女性を大勢連れている俺が奴隷商人と思われてしまったのかもしれないな。


「わかった。ひとまずお前たちについて行こう」

「アレックス!? 何を言っておるのじゃ!?」

「ミオ。すまないが、この馬車を頼む。一応、俺も簡単に対策はするが……≪石の壁≫」


 石の壁で馬車を囲み、騎士たちから馬車を守る。

 もちろん、ミオの結界が張られているので大丈夫だと思っているが、モニカとブレアがどのようにして連れて行かれたのか分からないので、念の為だ。


「父上っ! お待ち下さいっ! 私も、私も共に参りますっ!」

「アレックス! マリもっ! マリもっ!」

「大丈夫だ。すぐに戻ってくるから待っていてくれ」


 壁の中からモニーやマリーナの声が聞こえてくるが、俺は大人しく騎士たちについて行くことに。


「……オティーリエ。ブレアとモニカに、ドワーフの女性たちを頼む」

「……わかった。助けた後で、こいつらにはお仕置きだね」


 近くにいるであろうオティーリエに小声で話し掛けると、しっかり返事が返ってきた。

 オティーリエなら、見つかる事もないだろうし、見つかったとしても、苦戦する事はないはずだ。

 というか、やり過ぎを懸念するくらいだけども……万が一二人に何かあれば、俺もどうなるか分からないが。

 ひとまず……今はオティーリエに託す事にした。

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