挿話156 アレックスに託されたオティーリエ
「……オティーリエ。ブレアとモニカに、ドワーフの女性たちを頼む」
アレックスが小声で私に託し、騎士たちに連れられて……というか、自ら歩いて行った。
普通に戦えば、ここにいる騎士たちは私の敵ではないし、アレックスの敵でもないだろう。
とはいえ人質を取られ、無抵抗のアレックスがこんな奴らに攻撃されると思うと腹が立つ。
なので、アレックスから遠く離れた場所にいる、隊長格らしき男を吹き飛ばしておいた。
「……ふげぅっ!? 貴様、まだ何か……うごぉっ!」
ここでアレックスに手を出すなと脅しておきたいところだけど、私の存在は隠しておいた方が良いだろう。
なので、鎧を粉砕する程度で済ませておいた。
だが、騎士たちがアレックスを連れ、大きな街へ向かって行く一方で、石の壁に囲まれた馬車に張り付いている奴らも残っている。
「確か、馬車の中に、まだ囚われた女性が残っていたよな?」
「そのはずだ。奴隷として扱われているはずだから、何とかして助けないとな」
「とりあえず、壁を壊し……くそっ! なんて硬い壁なんだっ! 一体どういうスキルを使ったんだ!?」
うーん。大前提として、アレックスは奴隷商人ではなく助け出した側なんだけど、自らを正義だと信じて疑わない奴は話が出来ないのよね。
「仕方ない。馬車の中の女性たちは、明日助けよう。俺が見張っておくから、お前たちは戻って良いぞ」
「えっ!? ですが、先輩……」
「いいって、いいって。気にするな。それより、明日の朝に宮廷魔導師を応援に寄越すように申請しておいてくれ」
「わ、わかりました。では、帰還します」
「あ、あと、何故か向こうで鎧を脱いでフラフラしている隊長も連れ帰ってくれ」
一人の騎士が残り、他の騎士たちが街の明かりに向かって馬を走らせる。
これで、後はこいつだけ倒せば自由なんだけど……腰に折れていない剣を差しているあたり、先程アレックスに剣を向けていない事になる。
先程の言動といい、きっと事実を知らない良い騎士だと思うだけに、殴るのは可哀想にも思う。
どうしたものかと様子を伺っていると、
「ふっ、バカな奴らだ。タダで奴隷の女をいただけるというのに。俺好みの良い女が居たら、家で買ってやるから、楽しみにしているんだぞ」
独り言と共にニヤニヤしながら壁を登り始めた。
うん。ただのクズだったわね。
「さーて、若くて巨乳で可愛い女の子は……べほぁっ!」
男が壁の一番上まで登りきったところで、石の壁を蹴り壊し、男が落下してきた。
這いつくばった男が、訳が分からないといった様子で顔を上げ……蹴り飛ばすっ!
「……っ!」
ちょっと力を込め過ぎたようで、何か叫んでいたような気もしたけれど、遠くへ吹き飛んでいき、あっという間に聞こえなくなった。
なのでクズの事は忘れ、そのまま壁と結界に囲まれた馬車の中へ。
「……という訳で、私はブレアたちを救出してくるわ。二人とドワーフたちを救助したと知れば、アレックスは自ら脱出出来るでしょう」
「ふむ。では、我は宿の様子でも見てくるのじゃ」
「いえ、ミオは先程宿に顔を出しているからやめておいた方が良いと思う。おそらくだけど、今回騎士たちがやってきたのは、あの宿の従業員が呼んだからだと思うの」
「なるほど。まぁ事情を知らぬ者が、ドワーフの女性ばかり大量に連れていたら、奴隷商人と思われても仕方ないかもしれぬのじゃ」
「そうね。特に小さな村だし、すぐ近くには大きな街がある。あの街へ奴隷を売りに来たと思われたのかもね」
アレックスに限ってそんな事は絶対にしない……というか、そもそもする必要がない。
アレックスのアレを見れば、女なら大抵の者は自分から欲しがるだろうし。
「あ……そうだ。あの宿の従業員も、アレックスのを挿れてもらえば……」
「オティーリエよ。そういうのはアレックスを無事に救出してからにするのじゃ」
「そ、そうね。じゃあ、私は街まで走って……ううん。軽く飛んでくるよ」
ブラックドラゴンの姿は誰にでも見えてしまうけど、夜ならきっとバレないでしょ。
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