第891話 壊された女性騎士たち

「では、デイジー王女。貴女は魔法で眠らされていて、何も覚えていない……良いですね?」

「わかりました。アレックス様の……いえ、怪盗レックスの指示に従います」


 王宮へ着くと、太陰の力で普通にデイジー王女の部屋まで行き、ベッドで横になってもらう。

 あとはテーブルに怪盗レックスの仮面を置いて、攫われたデイジー王女がいつの間にか怪盗から返された……という状態を演出しておいた。

 これならデイジー王女は責められる事なく、悪いのは怪盗レックスという事になる……と思う。


「では、デイジー王女。また明日参ります」

「はい。あ……少しお待ちください」

「何でしょう……か!?」

「ふふっ、明日来ていただく約束ですからね?」


 くっ……デイジー王女にキスされてしまった。

 まだ十歳だし、王女だし、いろいろとマズい気がする。

 ひとまず部屋を出て、次はトレーシーをどうするかを考えていると、


「お、お兄ちゃんと王女様がチューしてた! お、お兄ちゃん。私もしてみたいなー」

「ふっふっふ。トレーシーちゃん。この後は、キスだけじゃないからね」

「そもそも、王女はアレを扱いておるし、飲んでおるのじゃ。キス如き、ただの挨拶なのじゃ」


 そのトレーシーに、太陰とミオが余計な事を教えていた。

 頼むから止めて欲しい。

 トレーシーをどうするかの前に、まずはフョークラとオティーリエに合流する。


「アレックス様ー! お帰りなさいませー! 今回、実験台が大勢いて、随分と研究が捗りましたー!」

「それは良かったな。ただ、その……相手は腐った騎士ではあるが、命を奪ったりはしていないよな?」

「勿論です。雌豚とか、猿になった者はおりますが、命に係わる事はしておりません」


 フョークラの示す先に目を向けると、全裸の女性騎士たちが……あの、確かに命に別状はないのかもしれないが、尊厳というか、心が壊れていないか?

 いや、完全に性根が腐っていた訳だし、騎士としてやり直す為にも、一度心を完全に壊して、一から心を入れ替えた方が良いのかもしれない。

 ……とはいえ、壊れた心は戻るのか?


「それから、腐りきっていなかった三人の女性騎士を同行する事をお許しください」

「え? その騎士たちは何の問題もなかったんだろ?」

「はい。ですので、明日から騎士団を再興してもらう為に、アメをあげようかと」


 三人の女性騎士にフョークラが何を言ったのか、全裸の同僚たちをスルーして、俺に向かって跪く。

 いや、騎士なのだから、俺ではなくこの国の王族に仕えるべきなのだが。


「ねーねー、お兄ちゃん。どうして、あっちの人たちは、みんな裸なのー? 豚さん……犬さんかな? 動物の真似をしているし」

「ど、どうしてなんだろうな」


 トレーシーが不思議そうにしているが、見せてはいけないものを見せてしまった気がする。

 まだ遠目だったので何とか誤魔化せたが。


「アレックスー! もぉー、遅いよー! 待ちくたびれて、一人残らず殴っちゃったよー」

「え? オティーリエ?」

「いやー、アレックスが戻って来ないし、ストレス発散をするにしても、騎士たちは全員逃げたでしょ? 女性騎士はフョークラが欲しいって言うから、私は男性騎士を相手にするしかなくて……アレックス以外の男なんて、サンドバッグにする以外価値がないじゃない」


 話を聞くと、逃げ出した騎士たちを人間の姿になって追いかけ、騎士とはどうあるべきかを説教しながら殴り続けたらしい。

 建物はかなり壊れたが、死人は出ていないそうなので、よ……よしとしよう。

 その、更生の為にやったはずだし……たぶん。


「アレックス様ー! 昨日の屋敷をお借りするんですよね? グレイスも待っていますし」

「いや、そうしたいのだが、この子を……トレーシーは連れていけないだろ?」

「マリーナちゃんが参戦しているのですから、問題ないのでは?」


 いや、大アリだよっ! 見た目の年齢は近くても、マリーナは成人で、トレーシーは未成年。ここは大きく違うんだっ!

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