挿話67 雪の宰相と呼ばれていた雪女のネーヴ

「人形たちは畑仕事がメインだが?」


 なん……と。

 あの魔法人形スキルを持ちながら、軍事利用していない!?

 これは勿体ない。雪の宰相と呼ばれていた頃を思い出すな。


「アレックス。せっかくだ。そのスキルを使って、軍隊を編成してはどうだろうか」

「軍隊……か。うーん、俺たち……特にメイリンは人形たちを子供のように思っているからな。それはどうだろう」


 なるほど。アレックスは優しいのだな。

 ……国民の事を考えず、ひたすらに国力増強だけを求めた結果、雪の宰相と呼ばれ、最も信頼していた部下に裏切らた挙句に、呪いを掛けられて奴隷として幽閉されていた私とは大違いだ。

 とはいえ、惜しい。

 程々に……かつてのように、国民から不満が出過ぎない程度に国を強くしたいとは思う。


「アレックス。軍隊という言い方は悪かった。私が言いたかったのは、この豊かな村を外敵から守る部隊……そう、自警団を作るのだ」

「なるほど。守る為の組織か。それは確かに必要かもしれないな。実際壁の外には魔物が居て、かつて空から魔物が来た事もあったしな」

「なるほど。空から魔物か。この地は他の国から攻められるというのは無さそうだから、対魔物に特化したり、対空手段を持った守備部隊を作ったりと、工夫が必要だな。どうだろうか……アレックス。私にこの村を守らせてくれないか? これから、私もずっとここに住むのだから、不測の事態が起きた際に、守れるようにしたいのだ」


 アレックスがパラディンという守りを主とするジョブだからか、軍隊というと良い反応が得られなかったが、守備部隊というと肯定的だった。

 よし。私は命の恩人であり、こ……婚約者であるアレックスの為に、この村を守ろう。

 しかし、まさか出会ったその瞬間にプロポーズを……真名を尋ねられるとはな。

 余程、私の容姿が気に入ったとみえる。

 そうでなければ、燃え盛る炎の中へ飛び込み、自分の身を省みずに私を助けたりしないだろうからな。

 あんな情熱的なプロポーズをされれば、応える以外に選択肢はないだろう。


 という訳で、アレックスと結婚を前提に行動を共にする事になったのだが、ま……先ずは文通からだろうか。

 わ、私の容姿はアレックスも既に良く分かっているからな。

 自分で言うのもなんだが、私は美人と言っても差し支えないはず。……ま、まぁ胸は人並みだが、顔は父に似ず、母譲りの美しい小顔で、幼少期から美少女だと言われてきたし、アレックスと文を交わして、内面を見てもらわねば。


「アレックス。では私たちは手紙を……」

「ん? 手紙? ……あー、家族に手紙を出したいのかもしれないが、ここには紙やペンの類が無いんだ。しかも、配達してくれる人も居ないから、手紙は難しいな」


 むぅ。アレックスと文通から始めるつもりだったのだが、配達はともかく、そもそも書く物が無いのか。

 では、一体どうやって私の内面を知ってもらうべきだろうか。


「ところで、さっきネーヴが言っていた自警団の事だが……」

「ん? な、何が気になるのだ?」

「一先ず、皆と相談しても良いか? 俺としては皆を守る為に、人形たちに力を貸してもらいたいが、それぞれの考えは尊重したいからな」

「勿論、構わない」


 アレックス、流石だ。私とは違い、独裁的に物事を決定し、進めない。

 やはり私に必要なのは、アレックスのような気遣いや、心意気だ。

 軍……もとい守備隊を組織する際にも必要だろうし、しっかりアレックスから学ばなければ。

 それからアレックスが、畑に居た子供に何か話し、


「少し相談してくるから、ここで待っていてくれ。すぐに戻る」


 そのまま子供に連れられて、何処かへ行ってしまった。

 トマト畑の真ん中で、エルフの少女と二人切りで残されてしまったが、アレックスから待っていてと言われた以上、私は待つしかない。

 特に話す事も無く、周囲の様子を見ていると、


「おねーちゃん。はい、どーぞ。おいしいよー!」


 羽の生えた小さな女の子が、両手で赤いトマトを差し出してくれた。

 な、なんと……ここには天使がいるのか!

 しかも可愛い。

 その上、


「お、美味しいっ!」

「だよねー。レイおねーちゃんがつくった、おくすりで、たべものがおいしくなるんだってー。すごいよねー」


 あり得ない程にトマトが美味しかった。

 この村……もしや、宝の山なのでは?

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る