第168話 スノーホワイトと呼ばれていたネーヴ

「何故、黒髪の一族の事を知っているのか……と言われても、あのスキルは有名ではないか。ある程度、国営に関わっている者であれば、誰でも知っているレベルだろう」

「国営に……って、じゃあネーヴも関わっていたの?」

「そうだ。元々軍事を専門としておったのだが、軍事強化に繋げる為、内政にも口を出しておったな」

「凄い。じゃあ、メイリンと話が合うかもね」


 んー。エリーがメイリンの名前まで出してしまったが、大丈夫だろうか?

 サクラたちが未だに警戒しているのだが。


「……むっ! 軍事に内政。炎に包まれていたのに生きており、そしてその服装……もしや、雪の宰相スノーホワイトかっ!?」

「雪の宰相? スノーホワイト? サクラ姉……それは一体?」

「ツバキは知らぬかもしれぬが、拙者たちの隣の国に、スノーホワイトと呼ばれる冷徹な指導者が居たという話を聞いたことがある。その者が率いる軍は強力で、物凄い勢いで領土を広げていったらしい。ただ、五十年ほど前に突然姿を消したのだが、それが人であらざる者だとしたら、今も生きていたとしておかしくはない」


 そう言って、サクラが遂に武器を構えた。

 サクラが武器を構えた為、当然ツバキも武器を構えてしまったので、


「待った! 一先ずネーヴの話を聞こう。それに、人であらざる者……という言い方は、どうかと思うぞ」


 慌てて二人とネーヴの間に割って入り、大きく腕を広げる。


「ふふ……確かに私はスノーホワイトだ。祖国で宰相をしていたのも事実。だが、我が国は黒髪の一族の国へ攻めた事は一度も無いぞ? 先程も言ったあのスキルが強力過ぎて、手がつけられなかったからな。それになにより、私が雪の宰相スノーホワイトだったのは過去の話。今の私は、アレックスに真名を捧げたネーヴだ。黒髪の一族に対して、敵意も何も持っておらんよ」

「……という事だ。二人とも、武器を仕舞ってくれないか? ネーヴも、俺たちや黒髪の一族を攻撃しようなんて気は……」

「私がアレックスに? そんなの事がある訳がないだろう。……す、既に、こ……婚約者なのだから」


 相変わらずネーヴが最後に何と言っていたかは分からないが、敵対意思が無い事は、はっきり分かった。


「アレックス様がそう仰るのなら……申し訳ありませんでした」


 一先ずサクラとツバキが武器を仕舞い、安堵したところで、エリーに腕を引っ張られる。


「ちょ、ちょっと……ネーヴさんの、真名を捧げたって何の事? アレックスはネーヴに何をしたの?」

「何を……って、炎に包まれていたから、そこから助けただけだぞ? あぁ、名前を教えてくれとは言ったが」

「……でも、それにしてはネーヴのアレックスを見る目が変じゃない? 妙に熱っぽいというか、冷たく振る舞おうとして失敗しているというか……」

「そうか? 夜のエリーみたいに、獲物を狙うような目はしていない……いや、何でもない。何でもないんだ」

「………………私の事は置いといて、ネーヴの事よ。ほら、サクラが五十年前とかって言っていたのに、私たちより年下に見えるじゃない。ネーヴの種族には名前を教えるっていうのが、特別な意味を持つんじゃないの?」


 エリーの言う通り、おそらくネーヴは人間ではないのだろう。

 だがそれを言い始めたら、リディアやニナはエルフにドワーフだし、ユーディットなんて天使族だからな。

 だから、そこは一切気にしないのだが、エリーの言う通り、文化や風習が異なる事には気を付けておかなければ。

 一先ず、エリーにも種族は気にするなという話をしようとしたところで、


「ちなみに、ネーヴは何ていう種族なの?」


 その前に聞かれてしまった。


「私は、スノーフェアリーという種族だ。おそらく、そちらの二人には雪女と言った方が伝わるだろうが」

「な……なんと。スノーホワイトは雪女だったのか。では、その白い服は……」

「もちろん私の魔力で具現化している。そんな事より、アレックス……ここには黒髪の一族の王族が居るのであろう? 敵意は一切持っておらぬから、是非魔法人形たちをどのように使っているか教えてもらいたい。まさか、全員畑仕事をさせている訳ではないだろう?」


 俺が名前の件について聞く前に、ネーヴから質問されてしまったのたが……ほぼ畑仕事しかしていないんだけど。

 あれ? 質問に答えたら、ネーヴが怪訝な表情に……何故だ?

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