第767話 魔族領攻略準備

 イベール国の最奥、王女が居る建物に入ると、女性兵士に事情を話してニナたちが居る場所へ案内してもらう。


「ニナ。何か情報は見つかっただろうか」

「お兄さん、おかえりー! ……何だか疲れているみたいだけど、大丈夫ー?」

「あぁ。問題ないよ」


 イベール国の古い文献を調べてくれていたニナたちと合流したので、先ずは俺たちの話を共有する。


「……という訳で、第二魔族領はレイスが大量に居たのと、白虎が現れて攻撃を仕掛けてきたんだ」

「アレックス様! その白虎については、私が見つけた資料が答えかもしれません」


 そう言って、グレイスが書き写したというメモを見せてくれた。

 そのメモによると、魔族領を支配する魔族の正体こそ分からないものの、謎の力で仲間を操るのだとか。


「なるほど。白虎がミオの言葉に聞く耳を持たなかったのも、そういう理由か」

「くっ……しかし、弱体化しているとはいえ、白虎を操るとは。その魔族は相当な力の持ち主という事なのじゃ」

「そうだな。だが、白虎を操っている力を何とか無効化しないと、戦いどころではない。先にそこを何とかしないといけないな」


 ひとまず、グレイスとガブリエラが引き続き文献を調べてくれる事になった。

 その一方で、ニナには俺の盾を直してもらう事に。


「うわぁ……お兄さんのこの大盾がこんな事になるなんて、相当凄い攻撃だったんだねー」

「白虎が金属の塊を頭上に生み出して、落としてきたんだが、それを防いだらこうなったんだ」

「そうなの!? けど、それにしては盾の曲がり方が変なんだよねー。金属を熱して、冷めない内に叩いたみたい……」


 流石というか何というか、盾のへこみ方をみたただけで、ニナがだいたいの状況を当てる。


「すまない。実はニナの言う通りなんだ。直せるだろうか」

「うん、大丈夫だよー! 任せてー!」

「助かるよ。あとは……モニカの聖水か」


 魔族領では剣に聖水の付与が必要となるが、何度も出せる訳ではないので、予め準備しておかなければな。


「ご、ご主人様。ご安心ください。通常の聖水であれば、レミ殿の薬により、早くも桶に半分程の量が……」

「モニカ!? 大丈夫か!?」

「ふ……ふふふ。ご主人様に搾乳……もとい搾水していただいていると想像すれば、むしろご褒美ですから」


 いや、何を言っているか分からないんだが。

 搾水って何なんだ。


「ご主人様。この私の聖水の桶をお願い致します。私は、再びお水をいただいてきますので」

「ほ、本当に無理はするなよ?」

「ご心配なく。ご褒美ですので」


 モニカは本当に大丈夫なのか?

 ひとまず、モニカから桶を受け取ると、フラフラと何処かへ行ってしまった。

 流石にモニカ一人で聖水を大量に作るのは無理があるな。


「……しかし、それはそれとして、この桶のままだと使い勝手が悪いから、何か容器が欲しいな」


 王宮の中を、桶を持ってウロウロしていると、


「むっ!? 確かアレックスと言ったか。その手に持っているものは何だ?」


 魔族領へ行く前に少し話した、イベール国の王女とその護衛たちの集団に遭遇する。

 よく考えたら、王宮内で謎の桶を持ちながらウロウロするのは良くないな。


「怪しいものではないんです。とある事情で聖水を手に入れたので、何か蓋付きの容器がないかと探していまして」

「聖水!? その量が? ……ほう、確かに。しかも、かなり品質が良い聖水だ。それをどうするのだ?」

「え? えーっと、魔族領の魔物と戦う時に、俺の剣を強化しようと思って……」

「何と! それは是非私にやらせてくれないだろうか。聖水の付与加工など、中々出来ないからな。我々ドワーフが施せば、その剣に常時聖水の力を付与できるぞ」

「それは願ってもない事ですが、王女自ら……?」


 俺の問いに、王女がわくわくした様子で頷く。

 これは断る事が出来なさそうだし、断る理由もないのだが……本当に良いのだろうか。

 見た目は普通の聖水だが、これはモニカの……うーん。王女が目を輝かせながら、桶を見つめているな。


「で、では、宜しくお願いします」

「おぉ、やらせてくれるか! ふふ、これは中々楽しみだ」


 王女が嬉しそうに桶を覗き込む。

 ……とりあえず、絶対にこの聖水の作り方は言わないようしようか。

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