第864話 気の力

「フョークラ。一体、いつの間にその仮面を準備していたんだ?」

「レックス様。今の私は怪盗フォークです。お間違えなきように」


 いや、フォークでもスプーンでも良いのだが……これはちゃんとフョークラの雰囲気に乗ってあげないと、まともに答えてくれない感じか。


「……こほん。怪盗フォークよ。どうして、お前が俺と同じ仮面を付けているのだ」

「ふっ、愚問ですよ。貴方様の仮面を用意したのは、この私です。ならば、お揃いにしたいと思うのが、乙女心というものではありませんか」


 あー、そもそも怪盗レックスの発案者がフョークラだったな。

 まぁ発案というか、既に根回しが終わっていたという感じだったが。

 とはいえ、いろいろと際どいレオタード姿はどうかと思うが。


「わかる! ねぇ、マリの分は? マリの仮面はないのー?」

「抜かりはありません。もちろん用意していますよ」

「わーい! フョークラ、ありがとー!」

「私は怪盗フォーク。フョークラという者は存じませんね」


 いや、名前については今更過ぎるが……マリーナの分まで仮面があるのか。

 俺たちよりも二回りほど小さな子供用の仮面を着け、マリーナが喜んでいる。

 ……まぁ楽しそうだし、良しとしよう。


「あ、あの。私の分などは……」

「我は要らぬから、欲しければくれてやるのじゃ」

「わぁ……ありがとうございますっ! 家宝に致します!」


 いや、止めてくれ。

 ミオの分の仮面をもらったデイジーが喜んでいるが、王女様が家宝にするという事は、国宝扱いになる訳で。

 王女様を攫った怪盗の仮面が国宝って……おかし過ぎるからな。


「それより、この結界を破る方法を知っているのか?」

「えぇ、もちろん。私はダークエルフ。普通のエルフやハイエルフが特定の森から出ず、精霊魔法に特化している反面、私たちは世界中のいろんな場所へ行き、様々な知識を得ています。だから、気の力についても使う事は出来ないけど、知識はあるの」


 なるほど。普通のエルフとは違う、ハイエルフという種族もいるというのは初耳だが、ダークエルフであるフョークラが様々な知識を持っているのはわかった。

 白虎と気の力の話をした時に、フョークラはその場に居なかったはずだからな。


「とはいえ、私が出来るのは元々レックス様が持っている気の力を一時的に増強するだけで、私自身は気の力の使い方は知らないから、そこは誤解しないでね」

「それは理解したが、俺は気の力の使い方なんて知らないぞ? いや、使える可能性はある。可能性はあるが、使い方は教わっていないんだ」


 気の力を使う白虎から、何かしらのスキルを貰っているので、それが気の力だという可能性はあるのだが、使い方がわからなければ意味がない。


「いえ、大丈夫です。人間族の……特に若い男性は気の力を持っている事が多いんです。そして、レックス様も間違いなくあるかと」

「そうなのか? わかった。では、気の力があるとして……どうすれば良いんだ?」

「私の薬でレックス様の気の力を増強させ、この結界を破壊してもらいます。この少女に触れられるようになれば、きっと何かが変わると思います」


 この少女に触れる……は良いのだが、正直どうなるのかはわからない。

 ミオが言うのだから、この少女が太陰の姿だというのは間違いないだろう。

 では、オティーリエと戦っている太陰は……いや、考えても仕方がない。

 フョークラの言う通り、眠ったように……いや、死んだように動かないこの少女を起こす事が、今出来る唯一の手段だと思われるしな。


「では、フォークの言う薬を飲むのだが……先にそれを飲むと、俺がどうなるのかを教えてくれないか?」

「……先程も申し上げた通り、気の力が増幅されます。怪盗レックス様ならば、その気をホーリーランスとして扱えるかと」

「ホーリーランス?」

「はい。聖なる槍です。レックス様の聖なる槍であれば、この少女を覆う結界を突き破る事が出来るかと」


 フョークラは、気の力を槍の形に変えろと言っているように聞こえるのだが……そんなのどうやってやるんだ?

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