第865話 聖なる槍ホーリーランス

 あまり時間もないため、ひとまずフョークラの薬を飲む事に。

 飲み終えても何も起こらないが、ホーリーランスいうのはどうすれば出す事が出来……んんっ!?


「こ、これは……フョークラ!?」

「違います。私は怪盗フォークです」

「フォーク。これ、精力剤ではないのか?」

「いいえ。それは怪盗レックス様の気の力を一時的に増強させる薬です。おそらく、元々レックス様の気の力がそこに集まっていて、それが強化されたので、そのような状態になっているのでしょう」


 えぇ……いや、確かに白虎も男が気の力を使えるようになった際に、こうなるという話はしていたが、この状況でどうしろと。


「気の達人でしたら、その気を体内の腕に集めて攻撃したり、全身に薄く延ばして防御したりするらしいですが、先程も申し上げた通り、私は増強させるだけで使い方はわかりません」

「くっ! 右腕に……移動しないか」

「レックス様。お時間も無いようですし、その立派な聖なる槍で、早く結界を貫いた方がよろしいかと。その効果もあくまで一時的なものですので」


 フョークラの話を聞いて、右腕に意識を集めたり、移れと念じてみたが効果はない。

 その一方で、ある部分に力が集まっているのを感じる。


「わぁ! アレックスの凄ーい! 本物の槍みたい!」

「怪盗レックス様は、その……変わったところから槍を出す事が出来るのですね。それにしても、とてつもなく長く太い槍ですが、どのようにして支えられているのでしょうか」

「ほほう。それにはいつも貫かれているが、確かにその槍は強力なのじゃ。さぁ早く結界を貫くのじゃ!」


 いつの間にかマリーナにズボンを下ろされていて、デイジーが不思議そうに凝視し、ミオが早く結界を……うん。デイジーが本物の槍だと思っている内に……って、幾らなんでも本物とは思わないと思うのだが。

 ……いや、相手は王族だし、有り得なくはないのか?


「レックスよ! 早くするのじゃ!」

「わ、わかった」

「マリがしっかり握って狙いを定めているから、大丈夫だよー! アレックスはそのまま突き出せば良いんだよー!」


 時間もないので、言われるがままに一歩前へ足を踏み出すと、不思議な力で俺の腕を止めていた結界にアレが突き刺さり、小さな抵抗の後にプスッと結界が破れた。

 これで、少女に触れる事が出来るのだが、


「太陰よ。我じゃ……ミオなのじゃ」

「……」


 ペチペチとミオが少女の顔を叩きながら呼びかけるが、反応が無い。

 俺も少女の身体に触れてみると……体温はある。

 だが、呼吸をしていないように思えるし、脈も無さそうな気がするのだが。


「レックス様。今ならまだ間に合います! その槍をこの少女の口へ!」

「えぇっ!? 口の中に槍を入れるのですか!? 大丈夫なのでしょうか」

「大丈夫です。レックス様の槍の先端からは、生命力と魔力を大量に含んだ薬が出るのです。それを飲めば、この少女も目を覚ますはず! 皆さん、手伝ってください!」


 フョークラの言葉で、マリーナが先端を少女の口に突っ込み、ミオがアレを……いや、待ってくれ! デイジー王女に何をさせているんだっ!


「あの、皆さんの見様見真似ですが、これで良いのでしょうか」

「えぇ、完璧です。ミオさんの熟練した手捌きと、私のフェザータッチに、マリーナさんの触手による締め付け。そして、デイジー王女のぎこちなさ……完璧です!」

「微力ながら、助太刀致します」


 デイジー王女が困惑しながらミオたちの真似をして、更に結衣まで現れ……くっ! 本当にこれで少女を助けられるんだよな?

 フョークラを信じて、意識の無い少女に無理矢理アレを飲ませ……何も起こらない。

 失敗かと思ったところで……す、吸われている!?


「……んっ、美味しい! それに、魔力が……魔力が回復していく!」

「おぉ、太陰よ! 目が覚めたか! 我の事はわかるか? ミオなのじゃ」

「え? ……ミオっ!? どうしてこんなところへ? ……あ、でも待って。今は、もっと魔力が必要なの。これ、もっと欲しい!」


 フョークラの言う通り、少女が目覚め、ミオの事も認識したのだが……ちょっと待ってくれ。

 デイジー王女にこれ以上アレを触らせたり、見せてはダメだっ!


「……何でしょうか。その薬……とても良い匂いがします。というか、この槍も凄く良い香りがしています。特別な木で作られた槍なのでしょうか」

「デイジー王女。この槍は丸太のように太く硬いですが、木材ではなくて……」

「いや、余計な事を教えなくて良いから! デイジー王女……というか、皆もう手を離すんだ」


 ひとまず目的は達したので手を離すようにいったのだが……太陰が離してくれないんだが。

 ミオ……何とか言ってくれ。

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