第863話 謎の祭壇

 マリーナの触手の先に向かって走って行くと、地下に降りていき、巨大な扉の前で触手が止まって……ないな。

 隙間から中に入っている。


「アレックスー。この先だよー!」

「なるほど。マリーナは中の様子が分かるのか?」

「ううん。何となく、こんな感じー……っていのを感じるだけで、ハッキリとは分からないよー」


 なるほど。扉を破壊すると、その衝撃でマリーナの触手も切れてしまいそうだな。

 切れても痛くはないと言っていたものの、だからといって切りたくはない。


「三人とも、俺から少し離れてくれ」

「何々ー? 何か必殺技でも使うのー?」

「いや、ただ体当たりするだけだ」


 デイジー王女を下ろし、マリーナが降りたのを確認したので、触手が隙間に入っている扉……の横の壁にタックルすると、簡単に中へ入れた。

 仰々しく守られている部屋かと思ったが、壁は脆いし、見掛け倒しだったか。


「……ふむ。魔力で強化された壁と扉だったのじゃが、あまり関係なかったのじゃ」


 ミオが壁を調べて呆れているが、まぁ大事な場所を守っている壁が劣化していたようだし、ジト目になるのも仕方ないだろう。

 どうやらザガリーはこの場所へあまり来ていなかったみたいだな。


「アレックス。これなのー」


 目的地に着いたようでマリーナが触手を戻して指差すと、その先には古い祭壇のようなものがある。

 その上には、幼い少女が横たわっていた。


「た、太陰!? ど、どういう事なのじゃ!?」

「え? この少女が太陰なのか?」

「その通りなのじゃ! しかし、外でオティーリエと戦っていた者の魔力も、間違いなく太陰だったのじゃ!」


 少女は目を閉じているだけのように見えるものの、その血色の良さとは裏腹に、一切呼吸していないように見える。

 何かの魔法で時を止められているかのようだ。


「……これは、ミオが使う結界みたいなものか? 触ろうと思っても触れられないな」

「……そのようなのじゃ。しかし、我が使う結界とは根本的に源が違うようなのじゃ。どちらかというと、白虎が使う気の力に近いように思えるのじゃ」


 白虎のあの力か。

 使い方を学んでおけば、この結界を破壊出来たのだろうか?

 白虎が居る場所は、比較的近いといえば近いが、それでも海を渡る必要があるし、どれだけ急いだ所で一日で行く事は出来ない。

 その間、オティーリエと太陰? が戦い続ければ、どちらも無事では済まないし、何より街の被害が更に増えてしまう気がする。


「この結界は後回しにして、ひとまずこの祭壇みたいな物を壊してみるのはどうだろうか?」

「だ、ダメなのじゃ! もしもこの祭壇が太陰の聖域だったばあい、良くて消滅、最悪反転してしまいかねないのじゃ」


 この祭壇が、シェイリーの社や六合の教会みたいなものだという事か。


「ん? 反転とは?」

「うむ。神族の力は信仰の力。聖域や拠り所を失い、完全に信仰を失った神族は、消滅してしまう可能性があるのじゃ。しかし、その消滅の手前で、邪神となり、信仰に似て非なる恐怖の力を得て力を取り戻そうとする……それが反転なのじゃ」


 まだ本気で殴ったりはしていないが、結界には手が出せず、祭壇を破壊すると、太陰が邪神になってしまうかもしれないという状況で、どうすれば良いのかと考える。

 一度本気で殴ってみようか?

 ただ結界を貫き、少女の身体も突き破ってしまうという可能性もある。

 もしくは、結界の下にある祭壇を破壊してしまうかも。


「んー、マリの触手でもダメなのー。この結界の中に入る隙間がないのー!」

「この祭壇の奥とかは、何か無さそうだろうか?」

「んー……わかんなーい!」


 いや……まぁ仕方がないか。

 俺も見た所でわからないだろうし。

 デイジー王女も太陰という名に聞き覚えがないそうで、まだ可能性がある白虎の所へ分身や走らせようかと思った所で、


「ふっふっふ、お困りのようですねっ! 怪盗レックス様!」


 俺のと同じ仮面を被った、レオタード姿の銀髪褐色エルフが現れた。

 ……って、いや、誰がどう見てもフョークラなんだが。


「我が名は怪盗フォーク! 華麗に見参っ!」

「わぁっ! アレックス! 怪盗フォークだって! カッコイイー! マリもやりたい! ……マリの名は怪盗リーナ! アレックスのをいただくのっ!」


 マリーナが目を輝かせ、嬉しそうに名乗りをあげるが……マリーナは俺の名前を普通に言っているな。

 もう今更だし、デイジー王女も気にしていなさそうだけど。


「か、怪盗フォーク……レックス様。私、怖いです」


 あ、うん。俺もある意味で怖い。

 頼むから変な薬を出さないでくれ。

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