挿話14 エリーからアレックスを取り返そうとするマジックナイトのモニカ

 先日タバサ殿が、アレックス様へ次の定期連絡時に私を推してくれると約束してくれた。

 その為、どのような服装でアレックス様に可愛がっていただこうかと、商店街で服を見ていたのだが、


「ちょっと待った。良く考えたら、数日前にエリー殿がアレックス様の所へ行っている。という事は、既にアレックス様とエリー殿が男女の仲になっているのは間違いない。そんな不利な状態からアレックス様を取り返さないといけないというのに、こんなただ可愛いだけの服装で良いのだろうか」


 ふと、今の服選びが間違っている事に気付く。

 普通ではダメなのだ。

 これは、エリー殿から私に乗り換えてもらうための戦い。既に大きなリードを許してしまっているのだから、一か八かの大逆転を狙う必要がある。

 私の武器は、この身体――もっとハッキリ言ってしまうと、大きな胸だ。

 エリー殿も小さい訳ではないが、大きさでは私の方が勝っている。

 胸を強調して、かつ可愛らしい服装……これだっ!


「ありがとうございましたー!」


 か、買ってしまった。

 白いブラウスに、キュッとウエストが締まった黒いミニスカート……要は胸の大きさを強調させ、肌の露出を激しく増したメイド服だ。

 エプロンを着ける普通のメイド服や、背中が全面的にガラ空きのセーターとも迷ったが、エリー殿に勝つ為なので、やり過ぎくらいで丁度良いと思う。

 ……冷静になって考えてみると、私はメイド服なんて着た事が無いし、胸を思いっきり強調し過ぎているこの服は、かなり恥ずかしい。

 だが、アレックス様の為だ! ……というか、そもそも次の定期連絡など待っていられない! 今すぐ連絡してもらうべきだっ!

 宿に戻ると、大急ぎで荷物を纏め、冒険者ギルドへ。


「いらっしゃいませ……って、モニカさん!? どうされたんですか?」

「タバサ殿! 先日、次の定期連絡時にアレックス様へ私の事を話してくれると言っていたが、あれはキャンセルしていただきたい」

「あ、そうなんですね。行き先が何も無い魔族領ですし、やっぱり大変ですもんね」

「そうではない。定期連絡時というのを止め、今すぐ連絡してもらいたい!」

「えぇっ!? あの、前回の連絡が三日前なので、流石に早過ぎるのですが……」

「少しくらい、構わないだろう。さぁ、早くっ!」


 前回の連絡が三日前という事は、エリー殿が最低でも三日間アレックス殿と二人っきりだったという事だ。

 ……うむ。一日に最低でも四回は可愛がってもらうとして、既に十回以上! やはり私も今すぐ行かなくては。

 だがタバサ殿は、困惑した表情を浮かべるだけで、動こうとしない。


「……タバサ殿が連絡してくれないというのであれば、私も強行策を取らなくてはならなくなってしまうぞ」

「強行策とは?」

「ギルドの奥にある、厳重に鍵が掛けられた部屋……あそこに魔族領への転送装置があるのだろう?」

「な、何故それを!?」

「やはりな。私も魔法を使う者の端くれ。あれだけ大きな魔力を感じる場所だ。察しがつく。私は、アレックス様の妻になれるのであれば、冒険者を辞めても構わない。つまり、あの鍵を破壊して……」

「分かりました。分かりましたから、無茶な事はしないで下さい……はぁ。では、今から急ぎ連絡を取るので、そちらで待っていてください」


 そう言って、タバサ殿が別の部屋へ。

 中で何か話しているようだが、流石に聞こえない。

 タバサ殿はちゃんと私の事を話しているのだろうか。

 ……しかし、随分と長いな。

 はっ! もしや、エリー殿が邪魔をしているのでは!?


「タバサ殿、失礼する」

「……お酒を送れば良いのですね……って、モニカさん!? 入って来ちゃダメですよっ!」

「アレックス様っ! 聞こえますかっ!? 以前に助けていただいた、マジックナイトのモニカです。アレックス様にこの身を捧げ、全力で奉仕させていただきますので、どうかお側に置いて下さい」


 タバサ殿の前に置いてある、通話魔法用の装置に向かって話し掛けると、


「ありがとう、モニカ。そうだな。今は人手が欲しい所だから、モニカが来てくれるというのであれば……」

「モニカさんっ! ちょっと待って下さい! こちらは貴女が思っているような場所では無いんです。どうか考え直して下さい!」


 せっかくアレックス様が返事をしてくれたと言うのに、エリー殿の声が割り込んで来た。


「エリー殿。やはり抜け駆けして、アレックス殿の元へ行っていたのだな。タバサ殿、私も早くアレックス様の元へ!」

「モニカさん!? 私の話を聞いてっ! こっちは、私だけではなくて……」

「さぁタバサ殿! 早く転送装置へっ!」


 エリー殿が向こうに居る事が推測ではなく、事実と判明した事で居ても立っても居られず、タバサ殿に詰め寄ると、


「はぁ……分かりました。アレックスさん、エリーちゃん。今からモニカさんをそちらへ転送するので、よろしくお願いします」

「ちょっ……ちょっと! タバサさんもモニカさんも話を聞いてっ!」

「では、タバサ殿。宜しく頼む。アレックス様っ! 今から参りますので、少しお待ち下さいねっ!」


 アレックス様へ声を掛け、転送装置がある部屋へ。


「……って、モニカさん。どうしていきなり鎧や服を脱ぐんですか?」

「エリー殿からアレックス様を取り返すのだ。それなりの準備は必要だろう」

「……うわ、いいな。大きい……じゃなくて、その格好は流石に恥ずかしくないですか? メイド服っぽいですけど、胸の上半分が丸見えですよ? スカートも凄く短いですし……って、その格好でも、剣は腰に差すんですね」

「当然だ。だが、鎧は他の荷物と一緒に送って欲しい。……よし、準備完了だ。宜しく頼む」


 買ったばかりの露出が激しい服に着替え、少し前屈みになって両腕で胸を挟み込むようなポーズで立つ。

 ふふっ……最初のインパクトは大事だからな。

 アレックス様……いや、格好を強調する為、ご主人様と呼んでみよう。


「ポーズまで決めて転送するんですね……まぁ構いませんが。では、そのまま魔法陣の中へ入って下さい。すぐに魔族領です」

「そうか。では行ってくる」


 胸を強調したポーズを崩さぬように、ちょこちょこ歩いて魔法陣の中へ入ると、一瞬で視界が変わり、アレックス様の姿が見えた。


「やっとお会い出来ましたね! ご主人さ……ま!?」


 あ、あれ? エリー殿が居るのは分かっていたが、見知らぬ女性が凄いジト目を私に向け、幼い女の子がキョトンとしている。

 だ、誰……なの?


「ねぇねぇ、お姉さん。胸の所、ボタンが外れて見えちゃってるよ?」

「ニナちゃん。たぶんモニカさんは、元からそういう服を着て、見せてるのよ」

「……低俗ですね。これだから、胸だけが大きな人間は。恥ずかしくないのでしょうか」


 エリー殿を含めた三人の女性から冷めた目を向けられて冷静になると、この格好が途端に恥ずかしくなってきた。

 穴があったら入りたいが、狭い小屋の中では、隠れる場所すら無さそうだ。


「くっ……殺せーっ!」


 自分でも分かるくらいに赤面し、恥ずかし過ぎて思わず叫ぶと、私から目を逸らしたアレックス様に、無言でシャツを渡されてしまった。

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