第34話 後方の龍と虎。正面の鬼による三つ巴の戦い?

 詳しい経緯は分からないけが、唐突にタバサから連絡があったので、酒を送って欲しいという話をしていたら、マジックナイトのモニカがやって来た。

 モニカはソロで活動するA級冒険者なのだが、魔物に囲まれている所を偶然見かけ、助けた事がある。

 それ以来、時々ギルドなどで、仲間になりたそうにこっちを見てきていたんだよな。

 だが話し掛けてくる訳でもないので、俺の勘違いかと思っていたら、


「やっとお会い出来ましたね! ご主人さ……ま!?」


 胸と脚を思いっきり露出させた、凄いメイド服でやって来たっ!

 ご主人様って何だ!? 俺か!? 俺の事なのかっ!?

 剣と魔法が使えるモニカには、前衛としてエリーと組んでもらおうかと思っていたのだが、まさかのメイドさん志望だったとは!

 そういえば通話魔法の中で、全力で奉仕する……と言っていたけど、こういう意味か。

 俺はてっきり、マジックナイトとして魔族領の開拓に協力してくれるのかと思ってしまったよ。


 ……って、色々と考えている内に、気付けばモニカの顔が真っ赤になっていた。

 おそらく、服のサイズが合っていなかったのか、転送時に胸の部分のボタンが弾け飛んでしまったのだろう。

 一先ず、極力胸を見ないようにしながら俺のシャツを渡すと、


「ご主人様……ありがとうございますっ!」


 やはりボタンが飛んで困っていたようで、顔をキラキラと輝かせて感謝されてしまった。

 ……って、モニカもリディアみたいに、俺のシャツの臭いをチェックするのかっ!

 臭くない……臭くはないはずなんだっ!


「ご主人様。幾つかお聞きしたい事があるのですが、宜しいですか?」


 臭いチェックを済ませたモニカがシャツを着たようなので、俺も向き直ると、


「ですがその前に……先ずは、私をここに置いて下さる許可をいただき、ありがとうございます」


 深々と頭を下げられ……胸元がっ! 胸元が物凄く見えてるからっ!


「……無理矢理押しかけて来たくせに」

「……低俗。わざとらしいですね」


 背後からエリーとリディアが何か言っていたけど、小さな呟きだったので良く聞こえなかった。

 なので、とりあえずスルーして、先ずは気になった事を言っておく。


「こちらこそ、モニカが来てくれて助かるよ。だけど、ご主人様っていう呼び方はどうなんだ?」

「いけませんか? でしたら……旦那様では?」

「ご、ご主人様で良いよ」

「ありがとうございますっ! 見ての通り、今の私はメイド。ご主人様の身の回りのお世話をさせていただきますので、妻と思っていただいても良いですよ? もちろん夜も」


 何だろう。モニカがそう言った瞬間、俺の背後に虎と龍が現れた気がする。

 そして、正面のモニカは笑顔なんだけど、背後に鬼が見えているような……気のせい、気のせいだよな?


「お、お兄さん……何だか、怖いよー」


 だがニナが怯えながら、俺にしがみ付いてきた。

 うん。俺とニナは、時々変な物を同時に感じるよな。

 俺も背後とモニカに異様な気配を感じるし、その感覚はきっと間違っていないと思うよ。


「あの、ご主人様。エリー殿の事は知っていますが、こちらのお二人は?」

「あぁ、紹介するよ。先ず、この子はニナ。ドワーフで、鉱物を加工出来るんだ。ブラックスミスっていうジョブだから、モニカの剣を強化してもらえるぞ」

「まぁ、それは素晴らしいですね。よろしくお願いしますね、ニナさん」


 そう言って、モニカが再び頭を下げ……くっ、見てはいけないのに、視線が胸元に引き寄せられてしまうっ!

 何故、モニカは渡したシャツのボタンを一番上まで留めないんだ!?

 ……まさか、胸が大きすぎてボタンが留められないのか!?

 なんとか気合いで目を逸らし、


「こ……こちらの女性はリディアだ。精霊魔法を使うエルフで、ここでの生活を助けてくれている。作物や水を生み出してくれているから、本当に助かっているんだ」


 次はリディアの事を紹介する。


「リディアです。紹介いただいたように、飲食を始めとして、アレックスさんを最も助けていると自負しています。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「そうなんですね。なるほど、まるで母親のような存在なのですね。では、私は色々な意味でアレックス様をサポートする、妻のような働きが出来るように努めますね。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「……お兄さん。雷が……雷が見えるよっ!」


 リディアとモニカの二人が互いに睨み――もとい、見つめ合って何かを目で語り合っている。

 どうして初対面だというのに、挨拶でこんな空気になるのだろうか。


「えーっと、モニカ。こっちがエリーだ。冒険者ギルドで何度か顔を見た事もあるだろ?」

「アレックス、私はモニカさんと顔見知りよ。まぁどういう訳か、喋り方も服装も変わっているけど……改めて、よろしくね。モニカさん」

「あら、エリーさんったら。私は普段から、このような話し方ですよ? どうぞ、よろしくお願いいたしますね」


 ……なんだろう。顔見知りだと言うのに、どちらも目が笑っていない笑顔なのは何故だろうか。

 あと何となくだけど、モニカの目が、余計な事を言うな……的な事を語っているような気がしなくもない。

 いや、これも俺の気のせいだろう。……きっと。


「あと、皆に紹介しておくと、モニカはマジックナイトというジョブで、俺と同じ様に剣が使えて、中位までの攻撃魔法が使えるんだ。……今は何故かメイドさんだけど」

「皆様、モニカと申します。最初はお見苦しい所もありましたが、剣も魔法もご奉仕も出来ますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 あ、メイドだけでなく、マジックナイトとしても戦ってくれるのか。

 だったら当初の考え通り、魔物探しと開拓作業を分担出来そうだな。


「……ねぇ、ご奉仕って、なーに?」

「掃除や洗濯とかの家事だけをする事よ」

「皆の家事を担う意味で、それ以外の意味は一切ありませんよ」


 ニナの言葉にエリーとリディアが即答し、何かを言おうとしていたモニカが黙ってしまった。

 奉仕という言葉には、二人が言った意味以外に何も無いと思うのだが……それはさておき、新たな仲間が増える事になった。

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