第35話 災厄級の魔物に遭遇し、謎の水溜まりを作るモニカ

「ところで、ご主人様。エリー殿はともかく、ニナ殿とリディア殿は、どこから来られたのですか? ここは人の居ない魔族領ですよね?」

「あぁ、それはな……」


 一通り紹介を行ったところで、モニカが数日前のエリーと同じ質問をしてきたので、同じように奴隷解放スキルについて説明する。


「エクストラスキル……流石はご主人様ですね。しかし七日に一度使えるという事は、数日後にはまた一人、ここに住む方が増えるという事でしょうか?」

「そうだな。ニナが来たのが四日前くらいだったかな? だから、三日後くらいには一人増えるかもしれないな」

「なるほど……だとすれば、早々に奪い返す必要があるな……」

「ん? 何か必要な物があるのか?」

「え!? いえいえ、何でもありません。気になさらないでください」


 モニカが何か呟いていたけど、気にするなという事だったので、早速ここでの活動について説明する事にした。


「……という訳で、一つは南に向かって壁を広げる事。もう一つは、酒を作ってシェイリーの力を回復させる事。最後に、新たな魔物を探して地下洞窟を探索する事だ」

「なるほど。でしたら、私はお酒と洞窟の探索に貢献出来そうですね」

「えっ!? モニカは酒を作る事が出来るのか!?」

「はい……と言っても、家の葡萄酒作りを手伝った事があるだけで、私自身は本格的に行った事はありませんが」

「家の葡萄酒作り……って、モニカの家は酒造りをしているのか?」

「そうですね。葡萄酒がメインで、少しだけ蒸留酒も造っていました。どちらも、一通り作り方は知っていますよ」

「それは助かる。俺は酒を飲まないし、葡萄から作られているんだろうな……という事くらいしか、知らなかったからな」


 詳しく聞くと、モニカの家は代々続く葡萄農家で、葡萄酒を造っているそうだ。

 これに加えて、購入した穀物から蒸留酒も作っていたのだとか。

 家業は兄が継いでいるそうなので、モニカは好きな事――冒険者となったが、幼い頃から酒造りの手伝いをしていたと。

 これは、マジックナイトとメイドさんに酒造りと、モニカに三役担ってもらう事になりそうだ。

 一応、タバサに酒を送ってもらうように頼んだが、自分たちで作れる方が良いだろうしな。


「よし。予定を変更して、先ずは葡萄酒作りに取り掛かってみたいんだが、皆良いか?」


 一応聞いてみると、モニカを始めとして、四人とも構わないと言ってくれたので、先ずは葡萄作りをする事に。

 普段は南側は壁を伸ばしているけれど、果樹を西側に纏めているので、今回は西の壁を広げる事にした。

 いつものように、リディアが壁の一部を消してくれたが、あまり開拓していない西側だからか、シャドウ・ウルフは待ち構えていない。

 なので、そのまま壁を作っていると、


「なっ!? ご、ご主人様っ! 黒く大きな……あ、あれは、災厄級の魔物シャドウ・ウルフではっ!? ご、ご主人様! 私が少しでも時間を稼ぎますので、どうかお逃げ下さいっ!」


 南側から、一体のシャドウ・ウルフが走って来た。


「あー、そうだね。だけど、大丈夫だからモニカは下がっていて」

「し、しかしっ! 私は以前、ご主人様に命を救っていただきました。で、ですから、今度は私がご主人様を……き、来たぁぁぁっ!」

「≪ホーリー・クロス≫」


 近寄って来たシャドウ・ウルフにパラディンの攻撃スキルを放つと、一撃で倒れ、影の様に掻き消える。


「お、アサシン・ラビットを食べたからか? 一撃で倒せるようになったな」

「え……い、生きてる? というか、災厄級の魔物を、たった一撃で!? これがS級冒険者の実力……」

「お、おい、モニカ!? 大丈夫か!?」


 アサシン・ラビット一体で、これ程までに強くなっているのであれば、これから沢山魔物を食べれば、あのベルンハルト並の敵が来ても、奥の手を使わなくても済むようになれるだろう。

 そんな事を考えながら隣に目をやると、モニカがペタンと地面に座り込んでいたので、手を貸したのだが、


「……あ、あの、ご主人様。申し訳無いのですが、着替えてきても良いでしょうか?」

「ん? あぁ、勿論構わないが、見ての通りシャドウ・ウルフは俺が倒すから、鎧などは着なくても良いぞ? 重いだろうし」

「いえ、その……恥ずかしながら、恐怖で下着が……し、失礼しますっ!」


 起き上がったモニカが、小屋に向かって走って行った。

 何故か、モニカが座っていた所に小さな水溜まりが出来ているのだが、これは何だろうか。


「アレックス。そんな物をじっくり見ちゃダメよっ!」

「お兄さん。流石にそれは見て見ぬ振りをしてあげようよー」

「まぁ、初見は仕方無いですね。私はギリギリ踏みとどまりましたが、初めての時は同じ事になりかけましたし」


 一体何の事かは分からなかったが、皆が見るなと言うので、謎の水溜まりを無視して石の壁作りを再開していると、すぐにモニカが戻って来た。


「あ、あの……私の荷物が未だタバサ殿から送られていなくて、でも気持ち悪いので脱いできました。ですから、ご主人様は、あまりこちらを見ないように……あ、でも夜まで待てないようでしたら、どうぞ……」

「アレックス! 絶対にモニカさんの方を向いちゃダメだからねっ!」

「アレックスさん! さぁ壁と葡萄畑作りを頑張りましょう! 私が手を引いて参りますので、ずっと下を向いていてください!」


 良く分からないが、モニカは何故か顔を赤く染め、エリーはモニカを俺の視界へ映さないように立ちはだかる。

 そして、リディアは普段のおんぶではなく、強引に俺の手を引いて石の壁作りを始め……って、一体何が起こっているんだよっ!

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