第546話 想定外の来客

「ねー、ねー。今度はお兄さんたちの事を聞かせてよー! お兄さんたちは何処から来たのー!?」

「どうして、旅をしているのー?」

「あの女の子、どうして背中に羽が生えてるのー? 空を飛んでるしー!」


 貝を取りに行った少女が服を着ずに、全裸のまま他の少女たちの輪の中へ入り、質問攻めに参戦する。

 ティーウィーという島の事をいろいろと聞いた手前、答えない訳にもいかず、一つ一つ順番に回答していく事に。


「俺たちは魔族領という所から来たんだ。この近くに居ると思われる、俺たちの仲間を助ける為にな。あと、ユーリは天使族なんだ。だから、空を飛ぶことが出来るんだ」

「魔族領って、何処にあるのー?」

「天使族って初めて見たー! 触ってもいいー?」


 うーん。回答しても、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

 まぁ少女たちは五人も居るからな。

 あと、さっきのリンゴの時もそうだが、返事をする前にユーリをペタペタ触っていた。

 とりあえず、脚はまだしも、羽は触らないようにな。

 少女たちからユーリを助けていると……突然景色が変わった。


「アレックスさん。おかえりなさ……って、また女の子が一緒なんですね。皆さん裸同然の格好で、一人は全裸ですか」

「えっ!? リディア!? ……って、アマゾネスの村か。という事は天后の転移スキルか」

「ちゃんとユーリさんに全員が船に居る事を確認してから、転移いたしましたわ」


 リディアに続いて天后が抱きついて来たが、その一方で、


「わー! どうなってるのー!? 一瞬で知らないところに来たー!」

「あのお姉ちゃん、耳が長いよー!? 何耳族なんだろー?」

「人がいっぱーい! すごーい!」


 海獺族の少女たちが、顔を輝かせながら周囲を見渡している。

 ユーリ。確かに、船に全員居るけど、海獺族の少女が居るから転移はしないで欲しかったな。

 まぁそういう事を事前にユーリへ伝えていなかった……というか、俺も立ち寄った先の住人が船に乗り込んで来るというのは想定外だったけどさ。


「アレックスさん。ひとまず夕食に致しましょうか。沢山作っておりますので、五人くらい増えても大丈夫ですので」

「えっ!? ご飯!? リンゴもある?」

「ありますよ……って、アレックスさん!? か、囲まれたんですけどっ!」


 先程のリンゴが余程気に入ったのか、海獺族の少女たちがリディアを取り囲み、早く早くと急かしている。

 リディアがかなり困惑しているし、取り囲まない方が早く食事にありつけると思うのだが。

 ひとまず、先程お礼としてもらった大きな貝を手に、輪の中へ入ってリディアを助け出すと、皆で食堂へ向かう。

 その途中で、リディアが俺が持っている貝に気付いた。


「あら? アレックスさん。その大きな貝は何でしょうか?」

「ん? あぁ、さっきこの少女たちにリンゴのお礼として貰ったんだ」

「なるほど。ちょっと見せてもらっても宜しいですか? ……って、これはまさか、ラージ・アバロンですか!?」


 聞いた事の無い名前が出て来たので、採ってきてくれた海獺族の少女――流石に、水着を着てくれていた――に目を向けると、その通りだと頷く。


「えぇぇぇ……とても大きくて、しかも物凄く新鮮! あ、あの! 今すぐ、これを調理させていただいて良いですか!? ……ありがとうございますっ!」


 そう言って、リディアが大きな貝を持って走って行った。


「お姉さん、どうしてあんなに慌てていたんだろ? 少し大きめの貝を選んだけど、あんなの幾らでも採れるのに」

「あー。君たちの島にリンゴが無いように、ここにはあんなに大きな貝が無いんだよ」

「なるほどー。……じゃあ、ここにはリンゴが沢山あるんだ!」

「あぁ。リンゴだけじゃなく、他の果物もあるぞ。植物なら、リディアに言えば大抵のものは生やしてもらえると思うが」

「そ、そうなのっ!? じゃ、じゃあ、伝説のマンドラゴラっていうのを食べてみたい! 島の男の人たち……特にお爺ちゃんたちが、死ぬまでに一度手に入れたいって言っていたんだー! きっと凄く美味しいと思うのー!」


 えーっと、マンドラゴラと言えば、レイが精力剤の材料に使っている植物だよな?

 お爺さんたちは食べたいとは言わず、手に入れたいと言っているみたいだから……うん。目的が違う気がする。

 そんな事を考えているうちに食堂へ着いたので、マンドラゴラについてはスルーしておく事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る